【長崎】動物虐待・行政対応を追う 長崎市で虐待疑い3件、飼い主への指導125件
犬や猫への虐待、遺棄、不適切な飼育に、行政はどこまで介入できるのか。
長崎市動物愛護管理センターの2024年度(令和6年度)実績によると、市民から寄せられた犬猫に関する相談は計783件。このうち「虐待(疑い)」に分類された相談は犬2件、猫1件の計3件だった。
一方、同年度に行われた犬猫の飼い主等への行政指導は125件に上る。
ただし、この3件は虐待が確定した事件や警察の検挙件数ではなく、動物愛護管理センターに寄せられた「虐待疑い」の相談件数。また、125件の行政指導も虐待案件だけを示す数字ではなく、放し飼い、鳴き声、ふん尿、餌やりなどを含む飼養管理全般に対するものだ。
動物虐待への対応を考えるうえでは、犯罪として立件された件数だけでなく、虐待や飼育崩壊に至る前の段階で行政がどのように不適正飼養を把握し、改善につなげるかが重要になる。
長崎市への犬猫相談は783件、猫が710件
2024年度に長崎市動物愛護管理センターへ寄せられた相談は、犬73件、猫710件の計783件だった。
このうち苦情関連は犬25件、猫454件の計479件。猫に関する相談が大半を占めており、侵入、ふん尿、悪臭、餌やりなど、地域の生活環境と密接に関わる相談が多い。
| 2024年度 | 犬 | 猫 | 計 |
|---|---|---|---|
| 相談総数 | 73件 | 710件 | 783件 |
| 苦情関連 | 25件 | 454件 | 479件 |
| 虐待(疑い) | 2件 | 1件 | 3件 |
虐待疑い相談は、2021年度12件、2022年度6件、2023年度11件、2024年度3件と推移している。
ただし、相談件数の減少をそのまま「動物虐待が減った」とみることはできない。行政に寄せられた相談の分類であり、実際に発生した虐待事件全体を示す統計ではないためだ。
飼い主などへの行政指導は125件
虐待疑い相談とは別に、長崎市は犬猫の飼い主等に対する適正飼養の指導を行っている。
2024年度の指導件数は計125件。内訳は、飼い主の義務違反などに対する口頭注意80件、文書注意17件、車載スピーカーなどによる指導啓発28件だった。
| 行政指導 | 2024年度 |
|---|---|
| 口頭注意 | 80件 |
| 文書注意 | 17件 |
| マイク放送等による指導啓発 | 28件 |
| 合計 | 125件 |
この125件には虐待だけではなく、飼養方法や放し飼い、生活環境への影響など幅広い問題が含まれている。
数字から見えるのは、刑事事件としての「虐待」だけが動物行政の対象ではないということだ。行政の現場では、動物の健康状態や飼養環境が悪化する前に飼い主へ働きかける対応も大きな割合を占めている。
虐待・遺棄は犯罪 明確なケースは警察へ
動物愛護管理法では、愛護動物をみだりに殺したり傷つけたりした場合、5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金が定められている。
餌や水を与えず衰弱させる、不衛生な環境で飼育する、病気やけがを適切に保護しないといった虐待や、動物を遺棄した場合には、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金となる。
長崎市も、犬や猫などの殺傷、虐待、遺棄は犯罪だとして、人為的な遺棄が疑われる場合や虐待を見聞きした場合には警察へ通報・相談するよう案内している。
公園、ごみステーション、墓地、空き地などに段ボール等に入れて犬猫を捨てる行為も遺棄に当たり得る。
「犯罪になる前」の段階で行政が介入
一方、現場では「虐待かどうか」の線引きが簡単ではないケースもある。
極端に痩せている、排せつ物が放置されている、多数の犬猫が過密状態で飼われている、必要な治療を受けていないなど、虐待を受けるおそれがある状態では、自治体による現地確認や飼養改善の指導が重要になる。
環境省の「動物虐待等に関する対応ガイドライン」では、虐待を受けるおそれがある事態について、行政が勧告や命令、立入検査などを行い、改善されない場合にはさらに対応を進める流れが示されている。
実際の虐待が疑われる段階では、自治体だけで処理するのではなく、警察への情報提供や告発を含めた連携が求められる。
つまり、動物虐待への行政対応は「虐待が起きてから処罰する」だけではなく、飼養状態が悪化した段階で問題を把握し、深刻化を防ぐ役割も持っている。
長崎市は10頭以上の犬猫飼育を届出制に
長崎市では2022年7月、「長崎市動物の愛護及び管理に関する条例」を施行した。
条例では、飼い主のいない動物への不適切な給餌などについてルールを設けるとともに、犬と猫を合計10頭以上飼養する場合、動物愛護管理センターへの届出を義務化している。
多頭飼育は、頭数が増えすぎることで十分な餌や衛生管理、医療、繁殖管理ができなくなり、飼育崩壊につながるケースがある。届出制度には、問題が深刻化する前に行政が飼養状況を把握する意味もある。
長崎市の2024年度資料でも、野良猫への無責任な給餌について指導しても改善されないケースや、多頭飼育崩壊が発生していることが課題として挙げられている。
長崎県にも動物愛護条例、市内とは制度を分離
長崎県でも2023年4月から「長崎県動物の愛護及び管理に関する条例」が施行され、適切な飼養施設の確保、健康管理、多頭飼養の届出などを定めている。
ただし、長崎市には独自の条例があるため、県条例は長崎市には適用されない。
長崎市内では長崎市動物愛護管理センター、市外では県や各保健所などがそれぞれの制度に基づいて対応する形となっている。
数字だけでは見えない「虐待の手前」
2024年度の長崎市への虐待疑い相談は3件だった。
しかし、この数字だけを見て「長崎では動物虐待が少ない」と判断することはできない。
同じ年度には犬猫に関する苦情が479件あり、飼い主などへの行政指導も125件行われている。そこには、虐待とは認定されなくても、動物の健康や生活環境の悪化につながりかねない問題が含まれている。
明確な虐待や遺棄は警察が刑事事件として対応する。一方、その一歩手前にある不適正飼養や多頭飼育、生活環境の悪化を早期に把握し、飼い主への指導や福祉・警察などとの連携につなげるのは行政の重要な役割となる。
動物虐待を減らすうえでは、事件化した件数だけでなく、「事件になる前の異変」を地域と行政がどう拾い上げるかも問われている。





