アイコン 建設業の熱中症死傷者292人 猛暑対策義務化で現場コスト増、工期にも影響


建設現場で、暑さが経営リスクになっている。厚生労働省が公表した2025年の職場における熱中症による死傷災害の発生状況によると、死傷者数は1803人に上り、統計上、過去最多となった。業種別では製造業が365人、建設業が292人と多く、死亡者数では建設業が5人で最多となった。

熱中症は、もはや夏場の一時的な労務問題ではない。建設業では、屋外作業、高所作業、重機周辺作業、舗装、型枠、鉄筋、外装、屋根、土木工事など、暑熱環境を避けにくい工程が多い。現場の安全対策を怠れば、労災リスクだけでなく、工期遅延、作業効率低下、追加人件費、下請け調整、元請けの管理責任にまで波及する。

特に深刻なのは、熱中症対策が「現場の気合い」では済まなくなったことだ。2025年6月1日から、職場での熱中症対策は強化され、一定の暑熱環境下で作業を行う場合、事業者には報告体制の整備、重篤化を防ぐための手順作成、関係作業者への周知が義務付けられた。対象となるのは、WBGT値28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上、または1日4時間を超える作業が見込まれる場合である。

 

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これにより、建設会社は「水を飲ませている」「休憩を取らせている」だけでは不十分になった。誰が体調不良を確認するのか、誰に報告するのか、作業を止める判断は誰が行うのか、救急搬送や医療機関への連絡をどう進めるのか。こうした手順を現場ごとに明確にし、元請け、一次下請け、二次下請け、職人まで共有する必要がある。

現場管理の面でも、猛暑は新たなコスト要因になっている。作業時間を早朝にずらせば近隣対応が必要となり、休憩回数を増やせば人工効率は落ちる。送風機、ミスト、日よけ、冷却ベスト、製氷機、塩分補給品、休憩所の整備にも費用がかかる。猛暑日は午後の作業を抑える判断も必要となり、工程表そのものを夏仕様に組み替えなければならない。

一方で、こうした対策費を見積もりに十分反映できていない現場も少なくない。資材高、人件費上昇、燃料費の負担に加え、熱中症対策費まで現場側が吸収すれば、下請け企業の採算はさらに悪化する。猛暑対策は安全管理であると同時に、工事原価の一部として発注者や元請けが認識すべき段階に入っている。

建設業は人手不足が続き、高齢の技能者も多い。暑熱環境への耐性は個人差が大きく、経験豊富な職人ほど無理をしてしまうケースもある。熱中症は若手だけの問題でも、高齢者だけの問題でもない。睡眠不足、持病、前日の飲酒、朝食抜き、慣れない作業環境などが重なれば、誰にでも発症リスクはある。

今後、建設会社に求められるのは、熱中症対策を「夏の注意喚起」ではなく、施工計画の一部に組み込むことだ。WBGTの測定、休憩時間の設定、作業中止基準、緊急時の連絡系統、下請けへの周知、記録の保存までを現場管理の基本項目にする必要がある。

建設現場の猛暑は、すでに例外的な気象ではない。夏場の工事は、暑さを前提に組み立てる時代に入った。熱中症対策を軽く見れば、人命だけでなく、工期、採算、信用を失う。建設業界にとって、猛暑対策は「安全対策」から「経営対策」へと変わりつつある。

 

[ 2026年7月 8日 ]
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