アイコン マッチングアプリ市場、拡大から淘汰へ(1) 安全投資とAIが勝敗分ける


スマートフォンで交際相手を探すことは、もはや一部の若者だけの行動ではない。こども家庭庁の「若者のライフデザインや出会いに関する意識調査」によると、直近5年間に結婚した既婚者が配偶者と出会ったきっかけは、マッチングアプリが25.1%で最多だった。職場や仕事関係の20.5%を上回り、アプリは結婚につながる主要な出会いの場となっている。

ただ、利用の定着と事業者の成長は同じではない。コロナ禍を追い風に急拡大した国内市場は、利用者を集めれば売上が伸びる段階を過ぎ、安全対策やAI開発に継続投資できる企業が生き残る選別期に入りつつある。

マッチングアプリ

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市場は拡大予測も、伸びは緩やかに

タップルとデジタルインファクトが2023年に実施した国内市場調査では、オンライン恋活・婚活マッチングサービスの市場規模を同年に788億円、2028年には860億円と予測した。

市場が縮小する見通しではないものの、5年間の増加幅は72億円にとどまる。コロナ禍にみられた急成長が一巡し、市場全体が安定期へ移っていることを示す数字でもある。

一方、東京商工リサーチの調査では、国内の婚活・恋活マッチングアプリ運営会社は、2019年3月末の5社から2025年3月末には28社へ増加した。わずか6年間で5.6倍となったが、新規参入の勢いは鈍っている。

売上高が判明した18社の合計は342億円で、このうち上位5社が75%を占めた。運営会社の数は増えたものの、収益はすでに一部の大手へ集中している。

 

参入しやすくても、運営を続ける費用は重い

マッチングアプリは、実店舗や大型設備を必要としない。開発を外部へ委託すれば、比較的小規模な資本でもサービスを始められる。この参入のしやすさが、コロナ禍以降の運営会社増加につながった。

しかし、アプリを公開した後には、利用者を集める広告費、本人確認、個人情報の管理、問い合わせ対応、不正アカウントの監視、システム改修などの費用が継続して発生する。

とりわけ安全対策は、一度整備すれば終わるものではない。詐欺や勧誘の手口が変わるたびに監視システムを更新し、審査体制を強化する必要がある。会員数が少なく、課金収入の限られる事業者ほど、この固定費負担が経営を圧迫する。

広告と知名度で会員を集める競争から、本人確認や犯罪防止へ資金を投じられるかを競う市場へ変わったのである。安全対策費は単なる経費ではなく、新規参入を阻む事実上の参入障壁となり始めている。

 

ロマンス詐欺546億円、安全性がサービスの商品価値に

警察庁が公表した2025年の確定値によると、SNS型ロマンス詐欺の認知件数は5645件、被害総額は546億4000万円に達した。前年と比べ、件数は47.6%、被害額は36.3%増加している。

この被害額はマッチングアプリだけによるものではなく、SNSなどを含むロマンス詐欺全体の数字である。ただ、交際や結婚を望む利用者に接近し、信頼関係を築いた後に投資や送金を持ちかける犯罪が増えていることは、アプリ事業者にとって無視できない問題だ。

利用者の間に「偽名や勧誘目的の登録者が多い」という印象が広がれば、新規登録だけでなく有料会員への移行も鈍る。安全性は、売上を直接生まない裏方業務ではなく、課金を支える商品価値の一部になった。

 

AIの役割、相手探しから不正排除へ

AIの用途も、相性の良い相手を推薦するだけではなくなっている。プロフィール作成、会話の支援、本人情報の照合、不審なメッセージや悪質利用者の検知など、登録から退会までの幅広い場面で利用が進む。

タップルは2026年2月、利用者の登録情報と質問への回答を基に自己紹介文を提案する「AIプロフィール生成」を導入した。同社によると、自己紹介文を登録している利用者は、未登録者と比べて受け取る「いいかも」の数が約2.5倍になる一方、十分な文量を登録している新規利用者は男女とも約3割にとどまっていた。

文章を考える負担を減らし、プロフィール登録を促進できれば、利用開始直後の離脱を防ぎやすくなる。AIはマッチング精度を高める技術であると同時に、利用者を有料会員へつなげる経営上の仕組みでもある。

同社はこのほか、マイナンバーカードを利用した本人確認や顔認証、AIによる不正利用者の早期検知、24時間365日の監視体制を導入している。本人であることを確認する技術と、登録後の行動を監視する技術を組み合わせる方向だ。

海外でも同様の動きが進む。PairsやTinder、Hingeなどを傘下に持つ米Match Groupは、Hingeで顔認証機能「Face Check」を主要市場に展開した。同社の2026年1~3月期決算資料によると、悪質利用者との接触を20~30%減らしたという。

 

有料会員は減少、課金単価で補う海外大手

世界大手の業績からは、マッチングアプリ市場の難しさも見えてくる。Match Groupの2026年1~3月期は、売上高が前年同期比4%増の8億6400万ドルとなった一方、有料利用者は5%減の約1350万人だった。有料利用者1人当たりの収入は10%上昇している。

利用者数の減少を、料金改定や追加機能への課金で補う構図である。ただし、同じグループでも長期的な交際を重視するHingeの直接売上高は28%増えた。単に多くの相手を表示するサービスより、利用目的を明確にしたアプリが支持を得ている可能性がある。

米Bumbleの2026年1~3月期決算では、売上高が前年同期比14.1%減、有料利用者は21.1%減となった。一方、有料利用者1人当たりの平均収入は8.9%上昇した。

利用者が減っても単価を引き上げれば、短期的には収益を維持できる。しかし、課金額が高くなりすぎれば、無料サービスや別のアプリへ移る利用者も増える。値上げだけに頼る経営には限界がある。

 

東京都も参入、本人確認の基準を引き上げる

民間企業に加え、自治体も市場へ入り始めた。東京都が2024年9月に本格稼働した「TOKYO縁結び」は、2026年6月末時点の実績で、申込者が約3万6000人、登録者が約1万6000人に達した。真剣交際は760組、成婚は265組となっている。

登録には本人確認書類だけでなく、独身証明書や収入確認書類の提出、オンライン面談が必要となる。民間アプリより手続きは重いが、登録者の身元が確認されているという安心感が利用につながっている。

自治体の参入は民間事業者にとって競争相手となる一方、業界全体の本人確認水準を引き上げる可能性もある。年齢確認だけで運営してきたサービスは、独身証明や収入証明など、より踏み込んだ確認を求められることになりそうだ。

 

会員数より信頼を競う市場へ

マッチングアプリ市場が直ちに縮小する状況ではない。結婚相手との出会いでアプリが最多となり、中高年、再婚希望者、地方在住者などにも利用が広がっている。

ただし、市場が拡大しても、すべての事業者が成長できるわけではない。大手は会員基盤と課金収入を背景に、AI開発や本人確認、監視体制へ投資できる。小規模事業者は、同じ水準の安全対策を整備するだけで経営負担が膨らむ。

今後は総合型サービス同士の競争だけでなく、中高年、再婚、地域、趣味、結婚意思の強い利用者など、対象を絞った特化型サービスの生き残りも焦点となる。

マッチングアプリは、会員数を集める拡大期から、利用者の信頼を維持できる企業を選別する段階へ移った。AIで出会いの精度を高めるだけでなく、詐欺やなりすましを排除し、現実の交際につなげられるか。安全投資を負担とみるか、競争力の源泉とみるかが、次の市場再編を左右する。

[ 2026年7月23日 ]
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