アイコン 選挙コンサルへの支払い問題 長崎県知事の答弁拒否が抱える政治的リスク(2022年12月9日~言論サイト『論座』郷原信夫)その3


https://webronza.asahi.com/politics/articles/2022120700007.html

大石県知事

「電話代」以外が含まれるのかという客観的事実は捜査に影響するか
郷原信郎 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士

郷原
告発状についてオンラインで説明する郷原信郎弁護士と上脇博之・神戸学院大教=2022年10月19日

政治的不信のリスクを帯びる「答弁差し控え」

 刑事事件においては、黙秘権を行使して供述を拒否した場合、それ自体によって不利益は受けない。黙秘権行使は正当な権利であるから、それを行使したとしても、政治的責任を問われることもない。
 しかし、公職者の地位は国民・住民の信任で成り立っていることから、刑事事件の嫌疑を受けている場合に、その事件に関して質問を受けて黙秘権を行使し、疑いを晴らさないことが信任に影響し、「政治的に不信を生むという不利益」が生じることになる。

 

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 もう一つ考えられるのは、答弁を求められている側の職務上の地位・権限が、捜査に影響を与えることとの関係である。
 県知事の場合、県警察に対する人事・予算に関する権限を有しており、自らにかかわる刑事事件について言及することは、県警の捜査に影響するとの見方もあり得る。そのような理由による「答弁差し控え」であれば、被疑者になり得る者の「権利」の選択ではなく、その立場・地位にある者に求められる「義務」のようなものということになり、「答弁差し控え」が政治的な不利益につながる程度が低いとも言える。
 しかし、警察と異なり検察の捜査処分は、もともと独立性が高く外部からの影響は考えにくい上に、本件は、国の機関である検察に告発が受理されており、検察の判断する立場にあるのであり、県知事の職務上の権限とは関係ない検察の捜査・処分が知事の発言で影響を受けることはないと考えられる。

郷原

コンサルへの支払いに「電話代」以外は含まれているのか
 告発に係る公選法違反の嫌疑の内容は、至って単純である。大石賢吾候補が知事選挙で僅差で当選した後に、出納責任者が選挙管理委員会に提出した選挙運動費用収支報告書の「支出の部」に「科目 通信費」「支出の目的 電話料金」として約402万円の選挙コンサルタント会社J社の支出が記載されている。

そのJ社代表者の選挙コンサルタントのO氏は、大石陣営の街頭演説に同行するなどし、選挙後、ネット番組に出演し、長崎県知事選挙で、大石陣営の選挙運動に積極的に関わっていたことを公然と認めていた。J社の商業登記には「電話業務」は事業内容に含まれておらず、情報公開請求で開示された402万円の領収書には「電話料金、SMS送信費ほか」と記載されていたことから、この約402万円に「電話代」だけではなく、O氏への選挙運動の報酬として支払われた疑いが生じた、ということである。

6月14日の県議会での一般質問で、中村泰輔議員が、電話代402万円の支払いについて質問したのに対して、大石知事が、「私としては、公職選挙法にのっとり適切な知事選挙の選挙運動を行ったと考えている」「402万円はオートコールなどの通信費の支出である」と答弁していた。
 12月2日の一般質問で、小林議員は、「刑事事件について聞いているのではなく、6月定例会で中村議員に答弁された内容の確認をしようとしている」として、再三にわたって答弁を求めたが、大石知事は、
告発状が受理され、関係当局による捜査が進行している状況において、事案の性質上、選挙に関する質問については、発言を控えると繰り返し、答弁拒否を続けた。

 この約402万円の「電話代」の支払についての公選法違反の嫌疑には、二つの段階がある。第1段階は、約402万円の支出の内訳について「電話代」に含まれないものがあるのか否かという「客観的事実」である。支出がすべて「電話代」だという事実が確認されれば、告発にかかわる公選法違反の嫌疑がすべて晴れることは言うまでもない。

 

 

 第2段階は、402万円の支出に「電話代」以外のものが含まれていたとして、それが、大石候補に当選を得させるためのO氏に対する選挙運動の報酬を含むものかどうか、それについて、出納責任者と大石知事との間に意思連絡があったのか否かなどなど、公選法違反の成否とその範囲の問題である。

 上記の6月県議会での中村議員の質問の時点は、私と上脇教授による告発状が提出された直後であり、「電話料金、SMS送信費ほか」の領収書の記載から嫌疑が生じてはいたが、第1段階の客観的事実について判断する材料はなかった。
 しかし、その後、告発状を受領した長崎地検では、告発状の取り扱いについての審査が行われ、約4カ月の期間を経て、告発が正式に受理されたのであり、その間、告発受理に当たって、告発の嫌疑の前提事実として、402万円の内訳についても確認しているはずである。仮に、約402万円がすべて「電話代」だと確認できたのであれば、我々告発人に説明して、告発状を返戻すれば済む話であり、告発状を受理することはあり得ない。
 そのことからすれば、今回の告発に係る公選法違反の嫌疑については、実質的には、第1段階の客観的事実については、「電話代」ではないものが含まれていることが確認され、第2段階の買収罪の成否の問題に移っていると考えられる。

[ 2023年1月20日 ]
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