車運搬「無償」の歪み 公取委、ホンダ系に勧告へ 構造的な優位、下請けにシワ寄せ
自動車ディーラーによる下請け整備業者への「無償運搬」要求に対し、公正取引委員会が本格的なメスを入れている。ホンダ系の「ホンダ茨城南」への勧告方針が固まったことで、国内主要系列の有力ディーラーで相次いで違反が認定される異例の展開となった。物価高や人手不足が深刻化する中、長年「商慣行」の名目でうやむやにされてきた商取引の歪みをこれ以上容認しないという、公取委の強い姿勢がにじむ。
常態化した「タダ働き」
今回、公取委が問題視したのは、車の修理や車検に伴う「引き取り・引き渡し」の陸送費用だ。
ホンダ茨城南は2024年秋以降、十数社に上る下請けの車体整備業者に対し、約1000台もの車両を無償で運搬させていたとされる。本来、運搬にかかる人件費や燃料費、万が一の事故リスクは、元請けであるディーラー側が負担するか、契約で明確に対価を支払うべき性質のものだ。しかし、現場では「契約書にも記載せず、費用も支払わない」という不透明な取引が日常化していた。
拒めぬ「優越的地位」
なぜ、整備業者は理不尽な要求を受け入れ続けたのか。そこには、メーカー系列の看板を背負う大手ディーラーと、地域の零細業者との圧倒的な力関係がある。
一般の顧客から修理などの窓口となるのはディーラーだ。自社で対応しきれない板金塗装や重整備を地域の整備業者に外注する構造になっており、下請け側にとってディーラーは経営の命運を握る「大口顧客」にほかならない。「仕事を切られるかもしれない」という潜在的な恐怖心が背景にあり、コスト負担を強いられる運搬業務を「無料サービス」として呑まざるを得なかった実態が浮かび上がる。
価格転嫁の「死角」にメス
今回の摘発は、単一の法人の不祥事にとどまらない。公取委は今年2月以降、日産系やトヨタ系の有力ディーラーに対しても同様の違反で立て続けに勧告を行ったほか、業界団体の日本自動車販売協会連合会(自販連)にも適正取引を促すよう異例の要請を行っている。
政府は現在、労務費や原材料費の適切な「価格転嫁」を経済政策の最優先課題として掲げる。自動車整備業界の足元で、依然として弱い立場の下請けが構造的な不利益を被っている現状に対し、公取委は主要系列を網羅する形でドミノ倒し的な摘発を進め、業界全体へ強い警告を発した。今回の勧告を機に、業界全体が「悪しき慣行」と決別し、実効性のある取引適正化へ舵を切れるかどうかが問われている。





