アイコン 1ドル163円台、円安で経営悪化が懸念される業種 輸入卸から運送、建設まで


円相場が一時1ドル=163円台まで下落し、輸入品や原材料、燃料を扱う企業の負担が一段と重くなっている。円安は輸出企業の海外利益を押し上げる一方、国内市場を中心とする中小企業にとっては、仕入価格の上昇を通じて収益を圧迫する要因となる。

東京商工リサーチによると、2026年上半期に判明した「円安」関連倒産は45件と、前年同期から32.3%増えた。業種別では卸売業が23件で全体の半数を占め、小売業9件、製造業5件、サービス業4件、運輸業3件と続いた。円安の影響は、輸入企業だけでなく、原材料や燃料を国内業者から購入する企業にも広がっている。

 

最も警戒される輸入卸売業

円安の影響を直接受けやすいのが、海外から商品や原材料を仕入れる卸売業である。輸入時のドル建て価格が変わらなくても、円で支払う仕入代金は為替相場に応じて増加する。

特に影響が大きいのは、衣料品、服飾雑貨、家具、インテリア、食品、コーヒー豆、機械部品などを扱う企業だ。価格競争が激しい商品では、仕入価格が上昇しても販売価格へ十分に転嫁できず、粗利益が縮小する。

帝国データバンクの調査では、2025年度の円安倒産69件のうち卸売業が38件、小売業が13件を占めた。繊維・アパレル関連だけで25件に上り、飲食関連が8件、家具・建具関連が6件確認されている。

 

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アパレル・家具・輸入雑貨

衣料品や靴、バッグ、家具、雑貨は、中国や東南アジアなど海外生産への依存度が高い。円安に加えて、現地の人件費や輸送費も上昇すれば、仕入価格はさらに膨らむ。

一方、消費者の節約志向が強いなかで値上げを行うと、販売数量が落ちる可能性がある。大手企業は大量発注や為替予約で負担を抑えられるが、仕入量の少ない中小事業者は条件面で不利になりやすい。

実際に、婦人服販売会社や靴下メーカーなどで、円安による仕入価格や原材料価格の上昇が採算悪化の一因となった倒産が発生している。

 

食品製造・外食産業

食品業界では、小麦、大豆、食用油、砂糖、コーヒー豆、カカオ、香辛料など多くの原料を輸入に頼っている。円安に原油高が重なると、原材料だけでなく、包装資材、冷蔵・冷凍費、物流費も上昇する。

2026年7月の飲食料品値上げは2566品目に達し、平均値上げ率は11%となった。即席麺や缶詰などの加工食品が1084品目、パンが1078品目を占め、中東情勢を背景とした原油・ナフサ高も包装フィルムや容器の価格を押し上げている。

外食店では食材費に加えて光熱費、人件費、配送費も増えている。ただ、客離れを懸念して価格を上げられない店舗も多い。低価格を売り物にする飲食店や、固定価格の弁当・給食を扱う事業者ほど影響が大きくなる。

 

運送・物流業

トラック運送業は、円安による原油高の影響を燃料費として直接受ける。燃料サーチャージを導入できる企業もあるが、荷主との立場が弱い中小運送会社では、上昇分を運賃へ反映できない場合がある。

運送業では、燃料費だけでなく、タイヤ、車両部品、潤滑油などの価格も上昇する。さらに人手不足による賃上げや、車両購入費、保険料の増加も重なり、利益が薄い事業者ほど資金繰りが悪化しやすい。

2026年上半期の円安関連倒産でも運輸業は3件発生しており、今後は原油価格と為替相場の双方が経営を左右する。

 

 建設業

建設業は一見、為替とは距離があるようにみえるが、鋼材、アルミ、銅、木材、住宅設備、電気機器、石油由来の資材など、輸入価格の影響を受ける材料が多い。

日本銀行の2026年6月企業物価指数では、円ベースの輸入物価が前年同月比29.7%上昇した。品目別では石油・石炭・天然ガスが56.4%、金属・同製品が40.7%、電気・電子機器が25.7%上昇しており、建設資材や設備機器の調達コストにも波及する可能性がある。

建設工事は契約から完成までの期間が長いため、受注後に資材価格が上昇すると採算が悪化する。追加費用を発注者に請求できない固定価格契約や、下請け比率の高い工事業者は特に注意が必要となる。

東京商工リサーチによると、2026年5月の物価高倒産では建設業が16件に上り、前年同月比77.7%増加した。人件費に加え、資材やエネルギー価格の上昇が資金繰りを圧迫している。

 

化学・プラスチック・包装資材

プラスチック製品や包装資材、塗料、接着剤、合成繊維などは、原油から作られるナフサや各種化学原料の価格に左右される。

円安と原油高が同時に進むと、化学メーカーだけでなく、食品容器、トレー、包装フィルム、建材、自動車部品など幅広い産業にコスト上昇が波及する。原料価格の変動が大きく、販売価格の改定に時間がかかる加工会社ほど利益を圧迫されやすい。

中東情勢が長期化し、原油やナフサの供給不安が強まれば、単なる値上がりだけでなく、原料不足や納期遅延も経営上のリスクとなる。2026年5月には、ナフサ不足などに起因する価格上昇が原因とされた倒産も確認されている。

 

畜産・酪農・食品加工

畜産や酪農では、とうもろこしや大豆油かすなどの飼料を海外に大きく依存している。農林水産省によると、飼料穀物の輸入量は近年約1300万トンで推移し、使用割合の高いとうもろこしの大半を海外から調達している。2025年度の飼料用とうもろこしは、米国産が輸入量の99%を占めた。

飼料代が上昇しても、生乳や食肉、卵の販売価格へすぐに転嫁できるとは限らない。電気代、燃料費、肥料費も同時に上昇するため、酪農家や養豚・養鶏業者の経営負担は大きくなる。

こうしたコストは、食肉加工、乳製品、菓子、パン、弁当など川下の食品産業へも波及する。

 

 小売業と生活関連サービス

輸入食品店、家電販売店、ホームセンター、家具店、衣料品店などの小売業も影響を受ける。仕入価格が上昇する一方、消費者の実質的な購買力が低下すれば、値上げと販売減少が同時に起きる可能性がある。

また、クリーニング、旅館、ホテル、浴場、介護施設など、電気やガス、燃料、食材を多く使うサービス業にも負担が及ぶ。料金改定に行政手続きや契約変更が必要な業種では、コスト上昇への対応が遅れやすい。

 

円安以上に問題となる「価格転嫁力」

企業経営への影響を左右するのは、輸入比率だけではない。重要なのは、コスト上昇を販売価格へ転嫁できるかどうかである。

帝国データバンクの2026年2月調査では、企業の価格転嫁率は42.1%だった。コストが100円上昇しても、販売価格に反映できたのは平均42.1円にとどまり、残る約6割を企業側が負担している。小規模企業や、取引先に対する価格交渉力の弱い企業ほど厳しい状況に置かれている。

今回の円安で特に警戒が必要なのは、「輸入依存度が高い」「原油や電力を多く使う」「価格転嫁が難しい」という三つの条件が重なる企業である。

円安が続けば、まず輸入卸や小売、食品、運送などに影響が表れ、その後、建設や製造、サービス業へ波及する。売り上げが維持されていても、仕入れに必要な運転資金が膨らみ、資金繰りが先に行き詰まるケースも増えるとみられる。円安倒産は為替の問題というより、企業の価格決定力と財務体力の差が表面化する局面に入っている。

 

 

[ 2026年7月22日 ]
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