再び出てきた海南航空・海航集団不安説 中国の現状
昨年、外資不足に驚いた中央政府は、外資流出を厳しく制限した。その煽りを受け、海外に不動産やサービス産業の傘下企業を多く持つ万達は、社債償還金の資金調達が金融機関からできなくなり、1兆円規模の資産を売却して、かろうじて生き伸びている。
同じく、海外に多くの不動産や傘下企業を持つ安邦保険集団(鄧小平一族と関係が深い会社)は今年2月、政府により潰され、代表らは逮捕され、会社は国家管理となり、海外資産を売り払っている。
その次に槍玉にあがったのが、海航集団(HNA)であった。
同集団も海外に多くの不動産や企業を持ち、今年2月、社債償還金の償還が一時できなくなるなど大騒動になった。2017年末の総負債額は約11兆円(ロイター)だった。
しかし、中央政府が情報のすべてを遮断し、情報が外部に流れなくなった。
海航集団の会長は、不正・腐敗摘発で名を上げ、今や№2に上り詰め習近平の腹心となった王岐山国家副主席と過去、上司・部下の関係にあり、中央政府が動いたのか、情報が外部に出なくなったとされる。
その後、海航集団の米国での所有不動産の多くが売却に付されたり、ドイツ株売却の報道などが欧米発で入っていた。
(海航集団と王岐山は深い関係にあると以前から見られている)
また、会長と海航集団を創業した王健会長(会長2人制)が、フランスの観光地で死亡する不可解な事件もあった。
そうした中、中国メディアの新浪網(本社:浦東)は、海南航空を中核とする海航集団の経営が危機的状況とする記事を掲載した。
原因は、一時期にあまりにも急速に企業買収などの投資を進めたことで、2018年上半期(1~6月)の新規借入は、約131億元(約2144億円)、返済額は約247億元(約4043億円)で、債務不履行も多発し、資産の多くを差し押さえられたという。
新規借入の約131億元を大きく上回る247億元を返済したことなどで、集団の営業キャッシュは前年同期比▲48%減の27億元(約442億円)にまで圧縮した。
グループ内の海航投資は、積極的な投資を繰り返してきたが、2018年上半期には傘下のアズールブラジル航空を売却するなど、現在は資金調達に全力を上げている。もちろん多くの投資が「失敗」という結果になっている。
9月になっても、持株会社の海航控股が北京海南航空大廈(ホテル)を13億元で不動産デベロッパーの万科企業に売却するなどの動きが続いている。
また、債務不履行も相次いだため、集団傘下で中国国内のA株上場している渤海金控、海航科技などの株権の多くが差し押さえられたとされる。
海航集団は2018年上半期に、土地、不動産物件、企業など資産1100億元(約1兆8000億円)分を売却した。
しかし、優良な資産はすでに売りつくしたので、今後は資産売却による資金調達はこれまでほど簡単ではないという。
記事は、「自らの血が足りなければ、外部から輸血するしかない」と説明。つまり、海航集団は銀行からの融資、債券の発行、信託、B2Cなどによる資金調達を必要するが、債務不履行が相次いだため困難になっていると分析している。
さらに、資金調達できたとしても、将来には再び利息という重荷が乗しかかると指摘している。
記事は、最後の部分で「海航集団の今後が、危険ではないとどうして言えようか」と主張している。
海航集団の正式名称は、海航集団有限公司で、前身の海南航空控股有限公司は1998年設立。海南省財政税庁が16%を出資するなど、「省政府の肝入り」で発足した企業であり、現在でも「背後には省政府」の性格が強いとされる。
2000年ごろは中国中央政府が、地方ごとに多数存在した航空会社を、中国国際航空、中国東方航空、中国南方航空の三大航空会社の系列に統合する動きを強めていたが、海南航空は独自路線を歩んだ。
中国で唯一、島嶼部だけで構成される海南省当局が、独自性を主張して海南航空を支援したとの見方がある。
海航集団は、2015年ごろから、前記のアズールブラジル航空など、海外企業を含めた企業買収や株式取得を急速に進めていた。しかし、2017年末からは一転して、売却の動きが加速した。
今年8月にはオリックスは海航集団から、航空機リースで世界第3位のアポロンリース(本社:ダブリン)株の30%(取得額約20億ドル前後)を買い取った。2015年に海航集団の傘下投資会社が25億ドルで買収していた。
また、9月には、経営危機だったドイツ銀行の筆頭株主にまでなっていたが、すべて売却する方針を発表している。今年2月には9.9%あったが、株価急落から売らなかったのか、まだ7.8%保有していた。
2018年7月には、創始者の一人だった王健董事長(会長)が出張先のフランスで急死した。南仏プロバンス地方のボニュー村で記念撮影をしている際に、誤って高さ10メートルほどの壁から転落したと発表されたが、「不審な点がある」との声も出た。(会社が危機にある中、フランスの観光地へ行くこと自体が不可解)
以上、
習近平国家主席はサッカーが大好き、こうした外貨流出の企業に対しては、徹底的に絞っているが、新たな企業による欧州サッカークラブの買収には忖度からか当局は目を瞑っている。
中国政府の方針は、海外不動産買収やホテルチェーン企業の買収は、中国で利を生まないことから、国家権力(金融機関が融資しなくなる)によって処分させている。
その代わり、最先端企業の買収を奨励している。しかし、欧米が安全保障面から最先端企業の中国企業への売却を承認しなくなったことから、人の買収に入っている。
2009年から始まる千人計画、これまでに8千人以上海外から引っこ抜いたとされるが、こちらも産業スパイとして米国が摘発強化に入っている。
「中国製造2025」でターゲットになっている人材は、米半導体や電子機器の巨大なEMSやファンドリーメーカーが多い台湾と、半導体や有機EL分野で最先端技術を持つサムスン電子やSKハイニックス、LGディスプレイなどの関係開発技術社員たちが狙い撃ちし、高額で引っこ抜いているという。
「中国製造2025」では、4・5ヶ所すでに最先端工場を完成させ、試験操業に入っているが、製造できる装置は日・米・欧から購入して設置しているものの、最先端の半導体の設計者が不足し、19年からの本格操業に間に合うか疑問視されている。
米中貿易戦争も中国経済に暗い影を落とし始めている。
9月の2000億ドル制裁の駆け込み需要で、7月・8月の輸出企業は大忙しだったがGDPは伸びるどころか4~6月の6.7%から6.5%に落ちている。自動車販売台数も9月までの3ヶ月間前年比でマイナスが続いている。
中国政府としては、海航集団に対して、金融支援を停止し、海外資産をすべて売却させ続け、最後の段階で、支援するかどうか決定するものと見られる。王岐山が最後は動くだろう。