【秀和システムが破産】"はじめてのWindows"の老舗出版社、船井電機買収で経営迷走か
老舗出版社の(株)秀和システム(所在地:東京都江東区東陽2-4-2、代表:上田智一)は7月4日、東京地裁において破産手続き開始決定を受けた。
負債総額は約50億円で、破産管財人には「東京丸の内法律事務所」の永野剛志弁護士(電話番号:03-3213-1081)が選任されている。
かつて『はじめてのWindows』シリーズなどで知られた同社は、IT・ビジネス書籍の分野で一時代を築いていたが、近年は出版業から大きく逸脱した経営戦略を展開していた。
■ 本業からかけ離れた多角化戦略
同社は2021年、子会社を通じて東証1部上場企業だった船井電機(現・FUNAI GROUP)を買収。その後、脱毛サロン「ミュゼプラチナム」など異業種への投資を進めたが、2023年には関連会社が取引先との未払いトラブルを起こす事態に発展。秀和システムは連帯保証人となっていたため、2024年には買収先である船井電機(株)の株式が仮差し押さえされる事態となった。
こうした経緯を経て、2024年10月に船井電機、2025年1月にはFUNAI GROUPが東京地裁より破産手続きの開始決定を受けており、秀和システムの経営も厳しい局面を迎えていた。
■ 「身の丈を超えた投資」が命取りに
出版不況の中で収益源を多角化する狙いがあったとみられるが、専門外の事業に大規模投資を行ったことが経営リスクを拡大させた格好だ。本業である出版においても、近年は存在感を失いつつあった。
■ 出版業界にも波紋
本件は、出版業界が抱える構造的課題を象徴する出来事だ。紙媒体の縮小やデジタル化の波に押されるなかで、生き残りをかけた“脱・出版”の動きは今後も加速する可能性がある。ただし、今回のように本業から大きく逸脱した無理な投資は、かえって命取りとなるリスクをはらんでいる。
■ 編集後記
秀和システムが直面した経営破綻の本質は、「本業の競争力を立て直す前に、無関係な分野に資源を振り向けた」点にある。出版不況のなか、収益構造の転換を目指す姿勢そのものは理解できるが、そのアプローチはあまりにもリスクの高いものだった。
とくに、出版という“知の蓄積”を扱う事業者が、消費者ビジネスや不動産に近いサービス業に進出するには、業種間の構造的な違いを埋めるノウハウや人材が不可欠である。そうした準備も見えないまま、連帯保証やグループ経営の複雑化により、リスク管理が追いつかなかったことが破綻を招いた。
むしろ、同社の強みであったIT入門書やビジネス書といった分野こそ、オンライン学習や法人向け教育コンテンツとして再構築するチャンスがあったはずだ。
たとえば、
・書籍×eラーニングのハイブリッド教材の展開
・企業研修向けの電子出版サービス
・YouTubeやUdemyとの連携による動画化
など、「出版×デジタル」による再定義の余地は大いにあった。
そのような本業の延長線でのイノベーションに挑まず、短期的なM&Aや異業種投資に活路を求めた判断こそ、致命的な誤りだったといえる。
老舗だからこそ持ちうる信用とブランド資産。それを「未来の読者体験」へどう繋げるかが、出版業の再生には問われている。
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