アイコン 保守分裂で三つ巴の激戦となった「石川県知事選(3月13日投開票)」


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保守分裂で三つ巴の激戦となった「石川県知事選(3月13日投開票)」で、安倍元首相と日本維新の会が自民党前衆院議員(安倍派)の馳浩候補支援で足並みをそろえている。

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3月4日の決起大会に合わせて金沢入りした安倍元首相の“前座”を務めたのが、維新の柴田巧参院議員(比例代表)。「全国各地の保守分裂選挙では、維新が応援した方が必ず勝利を収めています」と切り出して福井県知事選でも富山県知事選でも維新支援候補(現知事)が勝利したと強調、こう続けたのだ。
「(2月20日投開票の)長崎県知事選でも維新推薦の大石賢吾さんが541票差で勝ちました。今度は石川で、我々が推薦した馳浩を勝たせていきたいと思います」

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自民党最大派閥「安倍派(清話会)」会長の安倍元首相と、「長崎で『維新(推薦)の知事』が誕生した」と鼻息が荒い維新ががっちりとタッグを組む石川県知事選は、“タカ派コンビ”がさらに勢いづくのか否かを左右する決戦だ。岸田自民党より改憲に前のめりの維新は今や“第二自民党安倍派”のような存在で、

ロシアのウクライナ侵攻に乗じて核共有議論を進めようとしている点でも両者は一致。太いパイプで結ばれてもおり、今回の石川県知事選でも「安倍氏は日本維新の会の松井一郎代表に自ら協力を要請し、維新から馳氏推薦を取り付けた」
(2月8日の産経新聞)と報じられた。

全国展開が課題の維新にとっても、保守分裂選挙に関わるメリットは大きい。
長崎県知事選では、維新幹部が「自民党は県連推薦に対して維新は党本部推薦だから格上。もしも大石氏が勝つようなことがあれば『維新の知事が長崎に誕生』
となる」(2月2日の現代ビジネス)と語っていたが、馳氏当選なら「石川でも維新の知事が誕生した」と豪語することも可能だ。維新の目玉政策「身を切る改革」をアピールする広告塔としての活躍も期待できる。

党幹部をあげての支援もしている。長崎県知事選でも二回現地入りした鈴木宗男副代表(参院議員)も2月26日、石川入りして街宣や演説会で馳候補の人柄や実績を紹介して支持を呼びかけた。「先週の長崎県知事選挙も接戦をものにしたので、はせ浩候補もあやかりたいものである」(同日のムネオ日記)とブログで発信したのはこのためだ。
すると、大阪府知事の吉村洋文・副代表も3月6日、馳文科大臣時代に教育について語ったと振り返る応援動画を公開した。維新幹部あげての支援態勢を取っているのだ。
 一方、安倍元首相にとっては最大派閥の威信にかけた負けられない戦いになってもいた。

石川県は、「清和会(現・安倍派)」の四代前の会長・森喜朗元首相
の地元で、長年ライバル関係にあった故・奥田敬和・元大臣系の谷本正憲知事が8期目不出馬を表明する一方、森氏の誘いでプロセスラーから国会議員に転身した馳氏が去年7月に出馬表明もしていた。28年ぶりに奥田派から知事ポスト奪還するチャンスが訪れた森元首相が、自ら電話で県議や支持者らに馳氏支持を呼びかけるなど全力投球をするのは、「森奥戦争」の産物ともいえる。そして安倍元首相をはじめ稲田朋美・元防衛大臣や萩生田光一経済産業大臣ら同派の大物議員が続々と馳氏への応援に駆け付けるのも、名誉会長的存在の森元首相の意向抜きには考えられないのだ。
 自民党最大派閥が総力戦を展開し、そこに政党支持率で立憲民主党を超えることが多い維新が加勢すれば、馳氏の楽勝となりそうだが、実際は「安倍派だった山田修路・前参院議員や、元自民党市議の山野之義・前金沢市長が馳氏に競り勝っても不思議ではない横一線の戦いが続いている」(県政ウォッチャー)というのだ。
 安倍元首相や萩生田大臣が手抜きをしているわけではない。安倍氏が「馳さんは37本の議員立法を成立させた。それまでの日本一だった田中角栄を超えた」
「コロナ渦でなければ、恐らく海外からも沢山の人たちが応援に来たと思う」と絶賛すれば、萩生田氏もこう持ち上げた。
「(大物議員が続々と応援に来るのは)馳さんは友達が多いだけじゃないですか。
もう一方(安倍派だった山田候補)は友達がいないだけじゃないですか」「馳知事が困って経済産業行政で相談があったら私、いつだってホットラインで話ができる」。
 萩生田氏は大臣と電話一本で話ができる馳氏との関係を強調、「友達が少ない人の方がいいのか。私は多い方がいいと思う」と相手候補の誹謗中傷にも力を入れていたのだ。
 大物政治家にこれほど絶賛されても馳候補が混戦状態から抜け出せないのはなぜか。県政ウォッチャーは「馳候補の地元での評判の悪さと、信義違反のフライング的出馬表明が重なったため」と見ていた。
「自民党石川県連会長だった馳氏は去年7月、『衆院選が終わってから県知事選の候補者選定をする』という決定を無視して、フライング的に県知事選への出馬表明と衆院選不出馬表明をしたのです。しかも地元での評判が今一つで、『県知事選は馳氏しかいない』という気運が広がっていたわけでもなかった。それでフライング的出馬表明への反発もあって、4年前の県知事選でも名前が出た元農水官僚の山田修二参院議員に対する待望論が地元で強まり、同じ安倍派ながら12月24日に議員辞職、県知事選に名乗りをあげたのです」(県政ウォッチャー)
 これに対して森元首相も安倍元首相も山田氏に「出ないで欲しい」と不出馬を迫ったという。「東京で石川県知事を決めていいのか」と山田氏が訴えているのはこのためだ。3月6日の小松市の決起集会後、山田氏は次のように説明してくれた。
「『東京でもう(石川県)知事(候補)は決めているのだから、そのまま受け入れるべき』というふうに思っている方がいるのではないかという印象がある。
『(候補は)決まっている。それに従うようにお前も止めろ』と私に立候補を控えるように言って来られた方の考えもそうなのですが、県民の方に選択肢がなければおかしいと思い、立候補することにした。安倍さんも『出ないようにして欲しい』と仰っていました」。
 この山田氏の説明とフライング的出馬表明の経過を並べると、馳氏自身か周辺が「県連は馳氏で決定」「県連の決定に従わない山田氏が出馬」という誤った情報を森元首相や安倍元首相らに伝えて、既成事実化を目論んだ可能性がある。県政ウォッチャーはこう続けた。
「『衆院選後に候補者選定』という決定を無視した馳氏と、誤った情報を元に動き出した森元首相や安倍元首相ら清話会幹部への反発から、『東京で石川県知事を決めていいのか』といった声が地元で広がり、派閥の重鎮に『出るな』と言われた山田氏の背中を押した。『中央 対 地方』の構図が鮮明となると同時に、地方自治や民主主義のあり方を問う県知事選にもなったのです」
 中央(東京)から大物政治家が次々とやってきて馳氏に太鼓判を押しても、逆に地元での反発を招くという側面も有していたのだ。森元首相を長年支持してきた女性グループからも「馳知事誕生は何としても阻止したい」という声が漏れ聞こえてきた。2016年12月18日に金沢市内で開かれた女性の会合(約50名が参加)で、ゲストとして呼ばれた馳氏が次のような女性蔑視発言を突然始めたというのだ。
「僕の嫁の母親はめかけだった。めかけが入る墓はないので、何百万もかけて建ててやった」
 驚いた参加者からは「なんてことを言うのですか!」という声が出たが、「本当のことを言って、何が悪い!」と馳氏は撤回を拒んだという。
この発言をめぐるスマホ上のやりとりも見ることができた。翌2017年1月23日の馳氏から女性参加者へのメールには、「『妾』発言や『お墓の話題』が不適切だったとは私は思っておりませんが、●●さんが不適切だとおっしゃる気持ちは理解しました。相手が不愉快に思う話題はしてはなりません。次回から気をつけます」と釈明していたが、発言自体を不適切だとは認めなかったというのだ。
この発言を告発する女性参加者は「5年以上前の発言ですが、馳知事誕生の可能性が出てきた今だからこそ、有権者の判断材料にしてもらいたい」と話す。今回は森元首相から頼まれても、馳氏に一票を投じることはないとも強調した。
この発言について3月6日、萩生田大臣が駆け付けた金沢市内での街宣を終えた馳氏に聞いてみた。
ーー馳さん、奥さんの妻(「母」の言い間違い)妾発言について一言、「お墓作ってやった」と女性の会で話しましたよね。「不適切」と認めていないではないですか。6年前の(発言)、今でも不適切と思っていないのですか。
●馳浩候補 急に言われても分からない。
ーー(メールの画面コピーを示しながら)メールは覚えていないですか。
●馳浩候補 すいません。
ーー奥さんのお母さんが妾だから墓を作ってやったと(発言した)。覚えていないのですか。
●馳浩候補 ちょっとすいません。改めてまた。
ーー覚えていないのですか。「不適切ではない」と(女性の会を開いた)支持者の方に言っていますが。
●馳浩候補 改めてもう一回。
ーー(女性蔑視発言をする馳候補は)知事とて不適切ということで、(元首相の)森さんの支持者の人が向こう(相手候補)についていますが、反省していないのですか。不適切だったと。
●馳浩候補 急にそのことを言われても。
ーー記憶を思い出さないのですか。忘れてしまったのですか。
●馳浩候補 すいません、また。
この直撃から2日後の3月8日、写真週刊誌「FLASH」に「馳浩 知事選応援は娘だけ--高見恭子と失愛『冷戦10年』」と題する記事が出た。横一線で競い合う山田氏も山野氏も妻が一緒に活動しているのに、馳氏だけ妻が来ないと指摘。「ここ10年ほど夫婦関係は“冷戦”状態」という馳氏に近いレスリング関係者のコメントも掲載していた。
女性参加者が告発した問題発言を耳にした直後だったので、違和感を抱くことなく記事を読むことができた。なお妻の高見さんを、2015年11月19日の日刊ゲンダイは「1959年生まれ。東京都渋谷区出身。作家の高見順(本名・高間芳雄)と愛人の小野田房子との間に生まれる」と紹介していた。
馳氏を絶賛する大物政治家の応援演説と、「妻の母は妾で墓建ててやった発言」やフライング的出馬表明など地元で流れる話には大きなギャップがある。果たして有権者は、どちらが実像に近いと判断するのか。3月13日投開票の県知事選の結果が注目される。

フリージャーナリスト・横田一(はじめ)

[ 2022年3月11日 ]
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