慢性化する人手不足と企業の生存戦略/経済・税務の両視点から
2025年1月時点で正社員の人手不足を感じる企業が過去最高水準に達している。
特に「情報サービス」業界、「建設」業界などが深刻であり、労働力不足は今後も経済全体に大きな影響を与えるとみられる。非正社員においても「人材派遣・紹介」業界が人手不足を訴えており、労働市場の逼迫はより顕著になっている。
この状況を踏まえ、企業はどのような対策を講じるべきなのか。経済アナリストと税理士の視点を融合し、短期・中期・長期の戦略を考察する。
短期戦略:即時対応と倒産リスク回避
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賃金引き上げの検討
2025年度に正社員の賃上げを予定している企業は約半数以上に上る。特に人手不足を感じている企業では7割近く、人材確保のためには一定の賃上げが不可欠となる。とはいえ、全ての企業が大企業の「初任給30万円」に追随できるわけではない。可能な範囲での給与改善と、福利厚生の強化、柔軟な働き方の導入を進めることが重要だ。 -
資金繰りの安定化
人手不足による業務遅延や離職が業績を圧迫し、結果として「人手不足倒産」のリスクを高める。2024年には人手不足倒産が340件以上発生し、2025年1月には過去2番目の水準となった。経営者はキャッシュフローを見直し、金融機関との関係を強化しつつ、助成金や融資制度の活用を検討すべきだ。
中期戦略:持続的な経営基盤の確立
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DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
省人化・効率化の観点から、AIや自動化技術の導入が必須となる。特に単純作業をロボットやソフトウェアに置き換え、従業員を付加価値の高い業務に集中させることが求められる。 -
海外人材の活用
国内での労働力確保が困難な状況では、技能実習生や特定技能制度を活用し、外国人労働者の受け入れを拡大することも有効だ。労働環境の整備や言語・文化の壁を克服するための教育・研修プログラムも併せて進めるべきである。
長期戦略:持続可能な経営と社会貢献
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人材育成と定着施策の強化
賃上げだけでなく、従業員のスキルアップやキャリア形成を支援することが重要だ。社内研修や資格取得支援制度の充実により、長期的に企業に貢献できる人材の育成が求められる。 -
業界全体の働き方改革への参画
「2024年問題」による労働時間の上限規制など、政府の施策が企業経営に大きく影響を与えている。業界団体と連携し、政策提言や制度改正に関与することで、自社だけでなく業界全体の労働環境を改善することが可能となる。
結論
慢性化する人手不足の中で企業が生き残るためには、短期的な賃上げや資金繰りの安定に加え、中長期的なDX推進や人材育成、海外人材の活用など、包括的な戦略が求められる。また、税務面では資金繰りや補助金活用の視点を持ち、財務健全性を確保しながら事業を継続することが不可欠だ。経営者は、今後の経済・政策動向を見据えつつ、柔軟かつ計画的に対応していく必要がある。