【特集】港湾開発の壁となる"漁協" 反社・利権・法律の網の目
今回、西海市長選の結果を受けて、漁業の町が直面する課題をあらためて見つめ直すべく、漁業問題に焦点を当てた特集記事を寄稿する―
――戦後、GHQの統治下で整備された漁業協同組合(漁協)は、本来「漁民の自立と共助」を目的とした民主的組織とされていた。だがその理想とは裏腹に、現在もなお各地で根強く残る“闇の構造”が、国家的プロジェクトや地域開発を阻む実態が浮き彫りとなっている。
■ 「漁業権」が盾となる
日本沿岸部のほとんどの海域では、地元漁協が「共同漁業権」や「区画漁業権」を持つ。これらの権利は極めて強力で、港湾・基地・発電施設などの建設予定地と重なった場合、漁協の“同意”がなければ一歩も工事を進められない。結果として、一部の漁協が「補償金ビジネス」の温床となり、公共事業との摩擦が常態化している。
「ほとんど漁をしていない“名ばかり漁師”が、何千万もの補償を受け取っている例もある」(港湾関係者)
漁協による反対運動が続き、自衛隊施設やLNGターミナル計画が事実上“凍結”される例も全国で確認されている。
■ 一部に反社会勢力との結びつきも
漁協は地域密着性が高く、かつ利権性の強い組織でもあるため、古くから一部で**反社会的勢力の関与**が疑われてきた。特に昭和〜平成初期にかけては、元暴力団関係者が理事や関連団体に就くなどの事例が相次ぎ、警察庁も複数の都道府県に警告を出している。
「漁協が“地元の顔役”と結びつき、談合・不透明な補償交渉が繰り返されてきたのは事実。政治家の影もちらつく」(公安関係者)
港湾整備の入札や補助金の配分、さらには漁業権の割当を巡って、利権の私物化が起きていたという指摘もある。
■ 法の名を借りた“聖域”化
漁協を支える「漁業法」は、漁業資源の保護を目的に、漁業権の安易な譲渡や廃止を強く制限している。そのため、いったん漁協が反対の姿勢を示すと、行政も身動きが取れない構造となる。これは本来、環境保護や地域の持続的漁業を目的とした制度だが、一部では「法を盾にした抵抗装置」として機能してしまっているのが実情だ。
■ 実は支えたものもある
一方で、漁協が地域社会の防災・生活基盤として果たしてきた役割もある。高齢化・過疎化が進む漁村において、漁協は今なお数少ない生活支援ネットワークでもある。問題は、その公益性と私益の境界線が、あまりに不明瞭なまま放置されてきたことにある。
■ 利権の温床から公共の器へ
漁協が抱える構造的な問題を解決するには、「改革」と「再設計」が同時に必要だ。
まず、漁業権の透明化と公開制度の徹底が求められる。誰がどの範囲をどのように使っているのか、地域住民や行政が把握できるよう、デジタル台帳や利用実績の公表が必要だろう。
次に、補償交渉の第三者監視制度を導入すること。漁協と開発主体の直接交渉だけでは、談合や圧力が発生するリスクが高い。第三者機関が関与することで、法に基づいた公正な対話が成立する余地が生まれる。
さらに、組合員資格の見直しも不可欠だ。漁業実態のない“ペーパー漁師”の排除や、若手の参入促進策を併せて進めなければ、漁協はやがて地域にとっての「足かせ」となりかねない。
本来、漁協とは海という共有資源を持続的に守り、地域に富をもたらすための共同体だったはずだ。いま問われているのは、その原点への回帰である。