米大統領選混迷 人工中絶・堕胎禁止法がイシューに昇格 ハリス氏
米国のバイデン大統領が堕胎禁止を含めた保守的判決を繰り返してきた最高裁に対する大々的な改革案(終身制破棄)を発表し、これを受けてハリス副大統領は共和党優勢地域で相次いで堕胎禁止法を「トランプ堕胎禁止法」と規定して大統領選挙イシューに引き上げ、大統領選挙の争点になってきている。
トランプ氏については知り尽くされているが、
ハリス氏は、女性がこどもを生むか中絶するかは女性の権利であるとし、若い女性層の支持を集め、民主層を掌握する動き、またカルフォルニア州の検事総長時代は犯罪に対する厳罰主義を唱え、高い支持を集めたが、元来、共和党支持の保守層からも支持を得ていた。ただ、副大統領を3年半務めているが、これといった実績はない。
年齢ではトランプ氏が79歳の高齢、ハリス氏が59歳。白人が75%の米国、ジャマイカ人経済学者(スタンフォード大学教授)の父とインド人医学者(著名な乳がん研究者)の母を持つハリス氏、女性初・有色人種女性初の大統領が出現するか、多様化時代に米国で風か吹くかどうかは米国人しだい。
<トランプ氏のコンビのバンス氏の過去の発言が問題に>
トランプ氏自身は争点化を避けているが、相棒となった共和党副大統領候補に指名されたJ.D.バンス上院議員の過去の発言が問題となっている。
2021年、バンス氏がTV出演した際、ハリス副大統領や他の民主党議員について、ハリス氏に子供がいないことを揶揄し「人生に惨めな思いをしている子なしの猫好き(揶揄:孤独女)」と発言し「自らの選択で子のない惨めな人生を送る人間が、米国も惨めにしようとしている」と主張していた問題が取り上げられ、激戦州でトランプ陣営の票を失うことになりかねないとの指摘も出ている。
ハリス氏の夫は弁護士(ユダヤ人/2度目の結婚)、ハリス氏は2人の継母で、娘もバンス氏の発言にSNSで反論する騒ぎに発展している。夫の元妻もSNSでバンス氏を批判している。
トランプ氏は中絶に反対しつつも、「レイプや近親相姦による妊娠や母体に危険がある場合は例外を認める」考えだが、バンス氏は、かつて「レイプや近親相姦の被害者に対しても妊娠継続を義務付けるべきだ」していた(その後修正して例外を認めるとしているが、具体的な例外は表明していない)。(トランプ氏は種を撒き散らす人として知られている)
また、バンス氏は2021年の保守系教育団体での演説で、米国で保守派の文化的な影響力を保つために出産の奨励を主張し、「この国のすべての子どもたちに投票権を与えよう。その投票権は子どもたちの親に委ねよう」と述べていたが、この発言も今回、「生めない女性」「産まない女性」、女性の権利で矢面に立たされている。(維新の吉村知事の0歳児投票権主張はバンス氏を真似たもの。沖縄米軍司令官に対し、売春を奨励した元大阪維新知事の考え方との類似性)
人口中絶禁止=堕胎禁止問題は、共和党の大統領が指名した終身制の連邦最高裁判事が過半数を占め最高裁にあり、憲法では認められているとする人工中絶を最高裁が認めない判決を下し、米国では大混乱、州では最高裁判決に従わない民主党系の知事の州と中絶禁止を法制化した共和党知事の州とで大混乱となっている。
堕胎問題を選挙戦で争点にしたくないトランプ氏は、堕胎禁止法は州の判断に任せるべきだとし、争点に持ち込みたくなかったが、バンス氏の過去の発言への批判で、バンス氏を擁護せざるを得ない事態に追い込まれている。
<ハリス陣営司法制度改革も争点化>
米国の連邦最高裁の判事は終身制、前大統領のトランプ氏は40代の若い人物を最高裁判事に就任させるなど、共和党優位の最高裁判事の人事となっている。
最高裁判事は9人、共和党の保守派が6人、民主党のリベラル派が3人の構成。米司法制度では、連邦最高裁判事は、自主的に退任しない限り 死亡するまで最高裁判事であり続ける。
バイデン大統領はこうした司法制度の改革に乗り出し、その過程で中絶禁止問題が再浮上、ボピュリストのトランプ2世とされるバンス氏の過去の発言問題がクローズアップされているもの。
<ハリス氏「最高裁の信頼危機」>
ハリス氏は7月29日の声明で、「最高裁は判例を繰り返し覆す決定と数多くの倫理的論争で公正性に対する疑問が提起され、信頼の危機に直面している」とし「我々は前職大統領が在任中に犯した犯罪に対して免責特権を持たせないようにしなければならない」と明らかにした。
これに先立ち、バイデン大統領が発表した前職大統領に対する免責特権制限、最高裁判事の任期制限、最高裁判事の倫理規定新設などの改革案に賛成するという内容だ。
ハリス氏はこのうち最高裁が前職大統領の任期中に起きたことに対する免責特権を一部認めつつも、中断されたり延期されたりしたトランプ氏の犯罪行為を印象づける一方、特に2022年トランプ氏が任命した保守最高裁の主導で堕胎権利を認めた「ロー対ウェイド事件」の判決を廃棄した点を強調した。
<強みを前面に出したハリス氏…「トランプ堕胎禁止法」をイシュー化>
ハリス氏が特に前面に出したイシューは堕胎権だった。同時に堕胎権関連イシューはバイデン政府の間、ハリス氏が主導的に導いてきたイシューでもあった。
この日、アイオワ州が妊娠6週以降の堕胎を禁止する方法を施行すると、ハリス氏は動画の声明を通じて22番目に堕胎禁止法を制定したアイオワの州法を「トランプ堕胎禁止法」と規定し、批判した。
ハリス氏は「今回の決定で可妊期米国女性の3人に1人がトランプ堕胎禁止法の下で生きることになる。これこそ我々が投票をしなければならない理由」と主張した。
ハリスキャンプは勢いを集中させて、ハリス氏の夫ダグラス・エムホフ氏をはじめとする党内主要人物を総動員しながら、今週アリゾナ・ミシガン・ネバタなど主要激戦州の遊説で堕胎権関連のイシューを前面に出すという戦略を立てている。
<トランプ氏「暗殺未遂」銃撃事件を再点火へ>
トランプ氏は女性票が影響を受ける堕胎禁止法を争点にすることを嫌い、自らが被害者の銃撃事件を前面に押し出し作戦に切り替えている。ただ、ここでも銃規制には反対のトランプ氏の印象派免れず、民主党政権批判へ展開するものと見られる。どう演出するかどうかだろうが。
トランプ氏はバイデン大統領が辞退を決心する契機の一つになったペンシルベニア銃器暗殺未遂事件に対する関心を喚起しようとする動きを見せている。
バンス氏の発言問題、最高裁や堕胎関連イシューなどを自身に有利なイシューで覆おうとする狙いがある。
これに関し、トランプ氏はこの日暗殺未遂事件を捜査中のFBIに銃撃事件の被害者として面談に応じると明らかにした。
FBIはこの日、トランプ氏の面談計画を発表して「容疑者であるトーマス・クルックスの車両から見つかった2つの爆発物は爆発可能な水準で、クルックスが暗号化された外国アカウントと仮名を使って必要な材料を購入した」とし、クルックスの犯行が徹底した計画によって実行されたことを強調した。クルックスは共和党員だったため、政党批判は限定される。
また、ニューヨーク・タイムズ(NYT)やBBC、CBSなどもこの日、当時警察がやりとりしたメッセージを引用し、警察がトランプ氏の演説1時間40分前にクルックスの位置を把握していながらも犯行を防ぐことができなかったと報じた。
トランプ氏は31日にペンシルベニアの遊説を控えている。暗殺未遂事件が発生したバトラーで大規模野外遊説を進めるとも明らかにしているが、まだ具体的な日程は公開しないでいる。
一方、トランプ氏はハリス氏とのテレビ討論に対して曖昧な返事を出した。バイデン氏がハリス氏を後継者とした時点では、ハリス氏と早期にTV討論会を開催したい意向を示してトランプ氏であったが、ハリス氏が検事・検事総長・上院議員、経歴からしてディベート力も持っていることから大きく後退させている。
バイデン危機とされる若い世代のバイデン離れ、民主党を離脱して無党派で出馬しているケネディJr上院議員、5~10%の支持を得ており、この票がハリス氏に動けば、ハリス氏の勝利が現実化してくる。ただ、ケネディ氏は新コロナワクチン不要論者で、健康問題提起派であり、そうした党派に関係なくワクチン疑念派にも浸透している。
トランプ氏は移民問題でも、有権者の25%・数千万票は、黒人+アジア黄色人種+中南米人の有権者の票であり、そうした人種に対して差別とも取れる言動は厳禁だろう。ただ、舌先が甘く誤解を生みやすく、トランプ氏自身もそうした誤解を楽しむ異常性格でもある。
7月26日時点の米政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の世論調査では、
トランプ氏の支持率は47・9%、
ハリス氏は46・2%
と拮抗し、その差は1.7ポイントで誤差範囲内。
トランプ氏はバイデン大統領が出馬辞退を表明した7月21日時点ではハリス氏を3.1ポイントリードしており、ハリス氏が全米人気で支持差を詰めている。
すべては11月5日に決定する。
所詮、2番目の人が出馬してもダメなんです。