アイコン チェジュ機大惨事の全貌 バードストライク事故の歴史とロールス・ロイスの破綻


ジェット機はバードストライクとの戦いが続いているが、航空機会社もエンジンメーカーも苦慮している。かつてロールス・ロイスがバードストライキ対策の開発負担により経営破綻、全日空では旅客機のエンジンフードに目を描き飛ばしたものの効果はなかったという。

大量のウミネコ、鴨類、集団移動の椋鳥、渡り鳥、大型の隼やタカ類などによるバードストライク、これに対してジェットエンジンのブレードと内部の構造対策は対策改造され続けている。しかし、いまだ決定打はない。

日本国内では2019年まで1400~2000件報告され、2020年以降新コロナで減り、ウィズコロナ策で飛行便が増加した2023年は1499件となっている。

米国では、連邦航空局によると、2021年だけでも米国内で野生動物と航空機(軍用機含む)と衝突した件数は14,368件、ほとんどが鳥類と見られている。

バードストライクと経営破綻のロールス・ロイス
バードストライクに対する航空機エンジンメーカーの対策は、エンジン開発の際に鳥を吸い込ませて耐久テストを行なってきた。しかし、燃費効率が最優先されファンブレードが軽量な複合材料が採用されたものの、金属製に比して耐衝撃性に劣るため、前縁部をチタンで覆って補強する設計が増えている。
例としてロールス・ロイスがRB211エンジンの開発時に、複合材製ファンブレード(商品名ハイフィル)を採用したものの、バードストライク試験を通過できず、改良のための費用がかさんだことで資金繰りが悪化、1971年に経営破綻し国営化された。
この教訓を踏まえ、後に開発されたトレント(エンジン名称)では、チタン製の中空ファンブレードを採用している。

1960年代、航空機事故でバードストライク問題が浮上、ロールス・ロイスは航空機用エンジン「RB211」開発、大幅な軽量化を目論んだ炭素繊維製のファンブレードHyfilが、バードストライク試験における失敗、開発が難航して自動車部門の不振もあり経営難に陥り1971年には経営破綻した。
会社は分解され、英政府の管理下(国営)に置かれた。1987年、サッチャー政権により再度民営化された。

なお、経営破綻後、自動車部門は1973年に英ヴィッカース社に売却され、1992年にヴィッカース社はBMWと提携。ところが、ヴィッカース社が1998年にVWに売却され、売却契約の際、ベントレー部門はVWが継承、RR部門は2003年からBMWにより生産販売される内容となり、BMWは「ロールス・ロイス・モーター・カーズ」社を設立し、完全にBMW傘下となり現在に至っている。現在のRR車(現在はBMW製エンジン)とベントレーのエンジンは異なる。

 

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<バードストライクの主な航空機事故>
●1960年10月4日、イースタン航空375便墜落事故
米マサチューセッツ州のローガン国際空港を離陸した直後だった米イースタン航空375便(ロッキード L-188)がムクドリの群れと衝突し墜落、乗員乗客72人中62人死亡。

●1975年11月12日米オーバーシーズ・ナショナル・エアウェイズ032便大破事故
米ケネディ国際空港から離陸しようとしていたオーバーシーズ・ナショナル・エアウェイズ032便(マクドネル・ダグラス DC-10-30CF)がカモメの群れに衝突、パイロットは離陸中止を試みたが、機体は滑走路を逸脱し炎上、乗員乗客139人に死者は無かった。

●1988年9月15日、エチオピア航空604便不時着事故
エチオピアのバハルダール空港を離陸した直後のエチオピア航空604便(ボーイング737-260)がハトの群れに衝突、両エンジン停止。パイロットは付近の空地に機体を不時着させたが、乗員乗客104人中35人死亡。

●1995年9月22日、1995年アメリカ空軍E-3セントリー墜落事故
米エルメンドルフ空軍基地から離陸した直後のアメリカ空軍機(ボーイング E-3)がガチョウの群れと衝突、左翼側のエンジン2基停止、機体は操縦不能・墜落。乗員24人全員死亡。

●2004年11月28日、KLMオランダ航空1673便の衝突事故
オランダ・アムステルダム・スキポール空港を離陸直後のKLMオランダ航空1673便(ボーイング737-406)が鳥と衝突。
異常が見られなかったため、パイロットは目的地のバルセロナ=エル・プラット空港まで飛行したが、着陸時に滑走路を逸脱、バードストライクにより、前輪機構の一部が破損したためと推定された。乗員乗客146人に死者は無かった。

●2008年11月10日、ライアンエアー4102便衝突事故
独フランクフルト・ハーン空港へ着陸しようとしていたライアンエアー4102便(ボーイング737-8AS)がムクドリと衝突し、両エンジン停止。機体はハードランディング(胴体着陸)したが、乗員乗客172人に死者無し。

●2009年1月15日、USエアウェイズ1549便ハドソン川不時着水事故
米NYのラガーディア空港を離陸した直後のUSエアウェイズ1549便(エアバスA320-214)がカナダガンの群れと衝突、両エンジン停止。パイロットはハドソン川へ機体を不時着水させ、乗員乗客155人に死者無し。

●2019年8月15日、ウラル航空178便不時着事故
ロシアモスクワ州のジュコーフスキー空港を離陸した直後のウラル航空178便(エアバス A321-211)がカモメの群れに衝突し、両エンジン停止。パイロットは付近のトウモロコシ畑に機体を不時着させ、乗員乗客233人に死者無し。

●2024年12月29日、バンコク発のチェジュ航空2216便の衝突事故
チェジュ航空(ボーイング737-800型機/エンジン左右とも1基)が韓国南西部のムアン国際空港の着陸時にフェンス外壁に衝突、爆発炎上。詳しい状況は現在調査中だが、乗員乗客181人中179人が死亡、車輪が降りず、2回目の着陸態勢で胴体着陸して、スピードが減速せず、ローカライザーにぶつかり、そのまま、フェンス外壁に衝突した。原因はバードストライクと推定されている。


詳細、チェジュ航空の事故機、
08時54分ころ、管制塔はチェジュ機に対してきた向きで着陸することを許可した。
08時57分ころ、管制塔は、同機に対してバードストライク注意するように通告した。
08時58分ころ、ADS-Bでの最終確認位置は空港南約1マイル(約1.6キロ)で確認されている。
08時59分ころ、同機が、「メーデー(緊急事態発生)」と無線で発し、着陸をやり直した。
(ゴーアラウンド=着陸態勢から再浮上の間の時間が短すぎる)
09時00分ころ、1回目と異なり通常の反対方向から滑走路へ進入開始、(半周して再突入?)
09時01分ころ、管制塔、同機に対して着陸許可
09時03分ころ、胴体着陸(滑走路全長2800メートル、滑走路の900メートル地点に着地)
09時04分ころ、胴体着陸後、時速200キロのスピードで減速なく、外壁に衝突して今回の大惨事となった。
衝突は滑走路外にあるローカライズ(計器飛行用電波誘導器)に衝突し、そのままフェンスを突き抜け外壁(構造物)にぶつかり大惨事となった。

バードストライク発生、
両方のエンジンから炎、
車輪出ず、
1回目の着陸断念、
制御不能からか燃料消費の旋回飛行せず、
2回目の着陸、胴体着陸で敢行
減速の為の逆噴射なし、
時速200キロで滑走路を滑空、
コンクリで固められたローカライズ(電波誘導器)に衝突
そのままの勢いでフェンスや外壁に激突・炎上・前後分断の大破

<目撃者談>
なぜか事故直前の管制官とのやり取りが報じられていない。
空港近くの飲食店の目撃者によると、事故機は「ゴーアラウンド(Go-around=着陸・再浮上)」して、上空を小さく旋回した後、通常とは異なる反対方向から滑走路に着陸したという。

また、務安空港近くの海辺で釣りをしていた目撃者は、「旅客機が下降する途中、反対側から飛んできた鳥の群れと正面衝突した」とし、「(その後)ごう音とともに右側のエンジンから炎が見えた」と話している。鳥類に衝突後、エンジン不調、着陸する過程で機器の異常が発生し、再浮上したものとみられる」としている。しかし、その後も致命的な機器の異常が拡大した可能性がある。

<通常の胴体着陸と異なる異常着陸>
同機はバードストライクで両エンジンがストップ、油圧系統が効かず、コントロールを失ったまま、胴体着陸したと見られている。
車輪が降りずとも通常ならば、胴体着陸での火災を回避するため、旋回して燃料をほとんど消化させ、その後、胴体着陸態勢に入るが、今回はそうせずに胴体着陸を試みている。そうせざるを得なかったのだろう・・・。
結果、燃料が爆発炎上し、衝突による「中破」から、炎上により「大破」となり、被害を拡大させたものと見られている。
こうした非常時、パイロットがどう行動したかは別にして、車輪が出ないまま滑走路で減速するには逆噴射があるが、逆噴射も効かなかった可能性が高い。
結果、胴体着陸したまま時速200キロあまりのスピードで滑走路を通り過ぎ、フェンス外の外壁に激突し炎上大破し、大惨事となった。
なお、車輪は手動でも降ろすみとができ、30秒ほどかかるという。咄嗟の危機に機長の迅速な判断と実行力が求められる時間的にぎりぎりの思考。

識者によれば、APU機能
「バードストライクで両エンジンがいずれも故障すれば、APU(補助動力装置)が作動するまですべての電子機器が作動しない」という。
機長がそのことを知っていたのか、高度や尾翼、浮揚・降下のフラップ機能に問題は生じていなかったのか。1回目の着陸に失敗しており、その後の高度は低く、飛び続けることが困難に陥っていた可能性・・・。1回目の直陸態勢後、機器の致命的故障の拡大の有無・・・・

バードストライクの異常事態下、異常回避システムやシステム補助システムがあったのか、あっても速やかに損傷機能から順次機能回復がはかれなかったのか問われることになる。(ポーイング機の問題)

<空港問題・ローカライザー(電波誘導器)の設置問題>
韓国・務安国際空港(木浦と光州地区の国際空港)は韓国南西部(東シナ海側)に位置し、付近には113.34平方キロメートル(10キロ×13キロ)の干潟湿地保護区域があり、多くの渡り鳥の中継地や飛来地として知られ、空港の上空も行き来している。バードストライクリスクは必然的に高い空港となっている。韓国では一番のバードストライクの発生空港だという。ただ、バードストライクに対する要員は数名しか配置しておらず、ほかの韓国の国際空港の1/3程度だという。

 また、滑走路端から3百メートル離れたフェンス内に設置してある計器着陸誘導器のローカライザー(電波誘導器)に事故機が衝突し、その後、外壁に激突しているが、ローカライザーの下部がコンクリで固められており、胴体着陸機を痛めたのではないかとされている(前部・後部分断と火災原因とも)。
ローカライザーは国際基準では下部であってもコンクリで屈強に固めてはならないとされているようだ。務安国際空港は、国際空港認可の際にはローカライザーに問題は無かったが、昨年、耐用年数15年を向かえ、改修工事を行った際、コンクリで補強したとされている。現状、盛土の上にコンクリで支柱を補強した高さ3メートル(何本もあり幅も結構ある)のローカライザーが設置されていたという。

なお、ローカライザーでの衝突事故は、2015年4月広島空港でアシアナ航空機が衝突して機体が損傷、27人の負傷者(ほとんど軽症)が出た事故がある。原因はアシアナ機が滑走路の手前350メートルに設置してあるローカライザー(高さ6.4m)に上空を低空で入りすぎ、接触したことが原因だった。ただ、山岳空港で気象が変わりやすく視界に問題もあったとされる。元々広島空港は広島市の海岸埋立地にあった。

<乗客内容>
乗客175人のうち、2人はタイ国籍、残り173人は韓国国籍だった。
乗客の最年長者は1946年生、最年少者は2021年生で乗客5人は10歳未満だった。
乗客181人のうち、男性は82人、女性は93人だった。
同便のほとんどの客は「5日間のタイ・クリスマスパッケージツアー」での帰国便、道や郡の現・元職員8人、全南道教育庁の現職員5人であることが明らかになっている。これら関係官庁からツアー補助金が出ていたかどうかは定かではない。

<飛行稼働時間が多いチェジュ航空機>
2024年9月末時点で、チェジュ航空機の月平均稼働時間は418時間となり、大韓航空の355時間より17.7%長く、業界では稼働時間が多く、チェジュ機は総じて老朽化が早いとも指摘されている。

<チェジュ社長談>
なお、同社社長は同機について、事故機は2009年製のボーイング737-800型機で、出発・到着前の点検と24時間前の点検を完了していたと説明している。
機長は2019年から済州航空に入社、6,823時間の飛行経歴を積み、副操縦士も飛行経歴は1,650時間と、機長はベテランだった。
事故機は燃料消費の旋回を繰り返さず「胴体着陸している点からして、1回目の着陸試行後、空中で制御不能状態に陥っていた可能性」すらある。

同型機、事故翌日の30日にも引き返す事故
12月30日午前6時半すぎ、ソウル金浦空港発-済州行きの済州航空7C101便(乗客161人)が金浦空港を離陸直後、機体に異常が見つかり、平沢市上空で折り返し、午前7時25分に金浦空港に戻り、航空機を交換した後、再び運航することになった。済州航空側はランディングギア(前後の車輪)に異常があった可能性を考慮して折り返しを決定したという。
済州航空は現在41機を運航、全機がB737型機でうち39機が-800型機。

<米国の反応=ボーイングの株価>
ボーイングの株価は週末明けの12月30日に取引される。同社株の最近は12月6日の153ドルから17日まで上昇中で180ドルとなっている。
30日早朝、別の済州機B737-800機でも、ハードギア問題により、飛行中金浦空港に引き返しており、何か問題がありそうだ。
30日の取引開始10分後(日本時間同日23時40分)の価格は172ドル前後、前日の180ドルから4%前後下落している。米投資家はチェジュ機の事故を大きな問題とは見ていないようだ。それともボーイングの事故にしては問題が小さいと見ているのかもしれない。馴れとは恐ろしいものだ。

事故機は前日の28日には長崎空港を飛行発着、27日にトラブルか仁川に緊急着陸の謎
事故機は、発生2日前の12月27日、バンコク→務安→済州→北京大興→済州→務安→コタキナバル(マレーシア)で運用されていた。
うち、バンコク→務安の乗客が出発時にエンジンが停止したため、チェジュ航空に問い合わせたが「特に問題ない」と返答されたという。

事故翌日の30日に、チェジュ航空が事故調査委員会に提出した資料によると、
前述の27日のバンコクでのエンジン停止問題は事実ではないと明らかにした。
さらにFlightradar24によると、済州→北京大興運航時には、仁川に代替着陸(ダイバート/目的地外着陸/緊急着陸含む)した後、3時間後に北京大興へ向け再度出発していたと報じられている。何か問題がなければ目的外の空港に着陸することはない。それも韓国一混雑している仁川国際空港への着陸。調査委員会へ報告はなされていると見られるが、報道はなされていない(報道の真意のほどは不明)。
また、事故機は、発生1日前の同月28日に長崎空港発着で運用されていた。

今後、すべては、事故機のコックピット内での機長らの最後のやり取りなどが入っているブラックボックスと計器の状態を記録したボックスの回収により、明らかになる。


 

[ 2024年12月31日 ]

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