アイコン 指揮官不在のサムスン電子の死角

 

3年前までは「中国製造2025」に韓国の半導体業界は怯えていたが、トランプ米政権の中国企業制裁により、米半導体関連装置の販売やサービスが停止され、2025年計画をすっ飛んでいる。中国政府支援の下、多くの地で半導体工場が建設され、大生産の一歩前で頓挫した。

「中国製造2025」計画は、中国で使用・消費するものは中国で生産しようというもので、そのターゲットは半導体と有機ELディスプレイにあった。

その最大の脅威が消滅した。サムスン電子にとっては米制裁により5000億円あまりの売上高が喪失したが、制裁されたファーウェイのスマホはGoogleのOSが使用できなくなり、欧州市場など奪われた市場を取り戻し息を吹き返した。5G中継機器にしても先進国などがファーウェイ機器の導入を抑制し、棚から牡丹餅状態で受注を拡大させることができた。

半導体は2018年9月には過剰生産により単価下落、メモリ半導体のサムスン電子は巨大工場をいくつも建設中であったが在庫増に単価が大幅下落、新工場を急遽、システム半導体のファンドリー工場として利用し、米大手のファブレスメーカーから受注し、それまで10%未満だったシェアを今や17%を有するまでにした。
その勢いはファンドリーメーカーとして君臨する台湾のTSMCを追撃し、追い越せというものであった。
ところが・・・、

<半導体の逼迫要因>
1、2019年10月の車載用の半導体を造っていた旭化成の半導体工場の全焼・焼失
2、2019年11月以降、自動車メーカーの半導体買占め
3、2020年、新コロナのパンデミックにより、テレワークの世界的な増加により、パソコン需要の急拡大。
4、2020年、新コロナのパンデミックにより、巣篭もり需要急拡大により家庭用ゲーム機や家電製品の需要増
5、2020年、世界的にEV元年、半導体需要の急増
6、IOT家電の増加による半導体重要の増加
7、2021年3月19日、自動車用半導体を製造していたルネサスの工場火災(現在ほぼ復旧し生産回復)
など上げられようが、それはメモリ半導体より多品種のシステム半導体により多くの需要が生じている。
車両生産の場合、必要な半導体が一つでも手に入れられなければ車両生産はストップしてしまう。車の機構にあらゆる部分に電子制御機器が組み込まれており、それは何十箇所にもなる。さらに自動運転機能も加わり、EVではモーター類の制御も必要となり、それぞれ異なるシステム半導体が必要になる。

システム半導体は自社で開発製造していないファブレスメーカーは、ファンドリーに提供する設計図面に基づき製品化することから、長期契約になり、価格は安定している。
一方、汎用性の高いメモリ半導体(DRAMとNAND)は品薄状態になれば高騰しボロ儲けできるが、生産増により在庫が増加すれば価格は急落してきた歴史を繰り返してきている。

サムスン電子のファンドリー事業はスーパー大手からの大量受注が多い反面、台湾勢はスーパー大手から中クラスの半導体企業や中小のファブレスメーカーからでもシステム半導体を受注しており、少量多品種生産にも対応し、旭化成でも自社工場で生産する外、台湾のファンドリーメーカーにも製造委託していた(旭化成は全焼により半導体事業から撤退を表明している)。
そうしたことから、自動車向け(耐振動・耐久性が求められる)の半導体の受皿は台湾企業へ流れている。

ファンドリー事業におけるサムスン電子と台湾勢の大きな違いは、サムスン電子は2030年までシステム半導体でも世界一になると宣言しており、一方、TSMCはファンドリー事業に徹しシステム半導体のメーカーにはならないと委託企業と誓約して、これまで多くのファブレスメーカーや半導体企業から受注を獲得・拡大させてきた違いがある。
半導体製造の設計図面がファブレスからファンドリーへ渡ることから、その設計ノウハウが流出することにもなる。
そうしたことから、サムスン電子にファブレスが発注しているのは、普及品とされ、量は多いが最先端システム半導体の発注は少ないとされている。最先端のシステム半導体は相変わらずTSMCへ発注しているようだ。

今回の半導体の品不足の恩恵を一番受けているのは以上のようにTSMCであり、サムスン電子ではない。
こうした事態にサムスン電子は、各種半導体を組み込んだパッケージ販売の動きも採用しているようだ。その一つに世界一のシェアを有するSSDもあろうか。

<これまでは、サムスン電子にはツキがある>
今では家電事業では売れても利益は知れているが、2010年代のスマホの急成長によりスマホ部門が空前の利益を上げてきた。しかし、世界市場が15億台で満杯になると一転、市場争奪戦が激しくなり、安価な中国勢に市場を駆逐され、安値競争から利益も損なうようになってきていた。
スマホのプレミアム価格帯では、ブランド力で販売するアップルが君臨し、その牙城を崩すことはできないでいる。
スマホの巨額利益が望めなくなった間に、メモリ半導体の急騰急増により、それまで利益寄与が薄かった半導体事業が先頭打者に躍り出た。
しかし、その半導体事業が2018年秋から暴落する中、米トランプ制裁の漁夫の利でスマホ事業が再び巨額利益を出し救った。
ただ、中国勢のスマホはファーウェイに代わり、小米やOPPO+vivo勢が伸張し、サムスン電子のスマホ事業の巨額利益は一時的なものになった。
そこに半導体事業に新コロナ特需の追い風が吹いた。半導体部門が同社利益を再び大きく押し上げるものになった。

だが将来的には、中国2025も完全に消滅したわけでなく、有機EL事業では韓国勢とほぼ肩を技術水準のところまで来ている。半導体も最新型にこだわる必要はなく、より広範囲に高率なパッケージ化により、需要を満たすことも可能性としてある。

今や、韓国勢の最大のライバルになっているのは星条旗の国であろうか。
仕事をしたけりゃ米国へ来いとばかりに、台湾のTSMCは巨額を投じ、米国に6工場も造ることを決定、一部はすでに着工に入っている。

サムスン電子はこれまでもテキサス州にシステム半導体工場を有してきたが、トランプ政権・バイデン政権の要請を受け進出を表明しているものの、具体化させている案件は、長期の税務控除を求め、米国の州政府との間で難航している。

ARMをNVIDIAがソフトバンクから買収すれば、世界のファブレスメーカーの大手のほとんどが米国勢となる(売買契約済、各国へ買収承認伺い中)。台湾・韓国のファンドリーメーカーが米国で生産してくれれば、雇用や経済効果、安保面でも大助かりとなる。

やはり、オーナー企業であるサムスンの総帥が檻の中では決断が鈍る。
総帥はこのままでは、あと2年間も檻の中で暮らすことになる。

<メモリ半導体では>
メモリ半導体は韓国勢が圧倒している。しかし、ほかがないわけではない。
米マイクロンが昨年11月、世界初の「14ナノ-176段NAND型フラッシュメモリー」の量産を発表した。サムスンは15ナノ-128段であり、常に最先端技術を切り開いてきたサムスン電子に衝撃を与えている。
サムスンのDRAMシェアは2016年の47%から2020年は42%へ5ポイント低下したのに対し、マイクロンのシェアは23%から26%と3ポイントに上昇している。
2021年1~3月の四半期ではサムスン電子の半導体事業の営業利益率18%、対してマイクロンは20%と利益率でも逆転している。

サムスン電子が米国で生産規模を拡大させれば、韓国からの輸出が大幅に減少することにもなる。
韓国政府は世界市場が拡大し続けると見ており、半導体企業に対しても、半導体材料メーカーに対しても政府支援を拡大していくとしている。
ただ、今回の半導体不足から、欧州も半導体安保の面もあり、半導体製造企業の域内誘致や設置を求めている。

 

[ 2021年6月10日 ]

 

 

 


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