アフガン 最高指導者の側近を首相に抜擢 日本交渉難しい可能性
アフガニスタンのタリバンは7日、暫定政権の主要閣僚を発表した。政権トップにはタリバン創設者である故オマル師の側近アフンド師兼アクンザタ師の側近が就任、副首相にはタリバンの政治部門トップ、バラダル師を着いた。
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タリバン 暫定政権、閣僚発表 2021.9.7発足 |
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2021.8.15カブール陥落 |
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最高指導者 |
アクンザタ師 |
元司法長官 |
アフガンでイスラム法ファトワーを制定し執行した人物。厳格法理主義者 |
首相 |
アフンド師 |
元外相・副首相、「シュラ」最高会議長 |
創設者故オマル師側近、アクンザダ師側近 |
副首相 |
バラダル師 |
タリバン共同創設者 |
パキスタンで拘束、2018年米軍仲介でカタールに移送、米との交渉役 |
内相 |
ハッカニ師 |
最強硬派ハッカニ・ネットワーク創設者の息子 |
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国防相 |
ヤクーブ師 |
創設者オマル師の息子 |
今回の暫定政権の閣僚発表は、3日にも発表が予定されたが、権力闘争が発生したと見られ、5日には急遽、パキスタンの3軍情報長官がカブール入りして調整したものと見られる。
今回の組閣によりアフガニスタンは、イスラム原理主義化が進み、国民に対して厳しい対応をしてくるものと見られる。
米国や西側はタリバン共同創設者のバラダル師が首相に就任する予想していたが、副首相にとどまった。
これは、2010年にパキスタンで拘束され、2018年に米政権のパキスタンへの働きかけでカタールに移送、その後、米×タリバンでの停戦交渉、米軍撤退交渉など当たってきた経緯があることによるもの。
ただ、バラダル師は戦線の第一線にいなかったことだけは間違いなく、タリバン内で共同創設者として好意的に迎え入れなかったことを意味する。(タリバン内で信任を得ていたならば国外だろうと2代目の最高指導者に指名されただろうが、そうしたこともなかった)
一方、2018年に最高指導者に就任したアクンザタ師は、旧タリバン政権で司法長官として、シャリア(イスラム法)の厳格な法解釈により法体系を整備、法的拘束力を持つアァトワーにより勧告、布告、見解、裁断を発し、私生活に至るまで厳格な法体系を形成させた人物。自らが最高指導者であり、その側近を首相にすることで、権力掌握度合いを強めたものと見られる。
内政の実務を取り仕切る内相に最強硬派のハッカニ・ネットワークのバラダル師(8/15カブールに展開したタリバン/唯一自爆テロ容認グループ)が就任、アフンド師と協調するものと見られる。
一方、国防省に就任したヤクーブ師により、タリバン内の軍事的な脅威はアフンド師よりは和らぐものと見られる。
バラダル師は今後とも外相の役割を果たすものと見られるがその職責は定かではない。権力闘争に敗れたことは歪めず、タリバンの共同創設者としての権威は後退したものと見られる。
今回の暫定政権は、2018年5月に先代の最高指導者が米軍のドローン攻撃で暗殺されたことで、西側に対して、タリバン内にまだ根強い反発があるものと見られる。
ただ、バラダル師とハッカニ師の対立から、暫定的にアクンザ師が自らの側近を首相に就任させた可能性も残る。
だが、味をしめれば、アクンザタ師はイランの故ホメイニ師のような政治も含めた君臨型になることも予想される。
2016年の最高指導者指名では激しい権力闘争
2013年にタリバン創設者のオマル氏が病死、その後2016年まで隠されていたが、2010年からマンスール師(=アフタル師)が最高指導者代行を務めていたこともあり、指名され2代目に就任した。副指導者にはハッカニ師が指名された。
しかし、この指名に南部州が反発、別にラスール師を最高指導者に就任させた。マンスール派とラスール派(ヤクーブ師支持派)が武力衝突し150人あまりが死亡する抗争に発展したが、マンスール師の2代目就任は揺るがなかった。
だが、2018年5月に米軍のドローン攻撃でマンスール師は死亡、現在のアクンザタ師が3代目に就任、副指導者にハッカニ師とヤクーブ師が就いている。
2代目のマンスール師はアルカイダが支持、パキスタン情報部との関係も深いとされた。
しかし、旧タリバン政権はイスラム法の厳格な施行であったものの、42%のパシュトゥーン人により構成され、27%のタジク人などを少数民族を差別、攻撃さえ行ったことから、民族的な対立もある。北部同盟はそうした少数民族で結成され、旧タリバン政権は国土の3/4を掌握するに過ぎなかった。
(今回、タリバンは、米軍がアフガン政府軍に供与した兵器が全部無傷で保有、決起した北部同盟を瞬く間に壊滅させ、全土を掌握している)
そうした民族問題、宗教問題(タリバンはスンニ派系デオバンド派原理主義、少数ながらシーア派など異なる宗教もある)も複雑に絡み合っている。
<中国は>
中国はハッカニ・ネットワークともつながっているとされ、バラダル師になっても友好的であるが、アフンド師との関係は再構築する必要に迫られるものと見られる。
ただ、このままではアフガンは経済的に成立せず、中国に依存するしかなく、引き続き新疆ウイグル地区のイスラム教徒に対する不可侵を条件に援助、支援強化により一帯一路戦略を強力に推進するものと見られる。
<西側諸国は>
日本も含めた西側が期待したバラダル師が首相ではなく副首相にとどまったことにより、西側のアフガン交渉は難しくなったものと見られる。また、アフガン国内の民主化は大きく後退するものと見られる。
<日本は>
日本は軍隊をアフガンに派遣しておらず、独自外交すれば道は開かれようが、米国の金魚の糞の外交に終始すれば、西側と協調してアフガン交渉に当たるしかなく、交渉は長引くものと見られる。
アフガンには機関や企業の日本人や日本に協力したアフガン人など計500人あまりを移送することを計画して、政府専用機を含め自衛隊の輸送機計3機をパキスタンに飛ばし救出作戦に出たが、現地米軍との連携ができず失敗に終わっている。現地ではアフガン人協力者800人が日本の救出を待っているという。
今回の暫定政権を見る限り、アフガン人の国外移送はさらに難しくなったものと見られる。
日本は2001年以降、米政権の求めもあり、アフガンに莫大な経済援助を行ってきている。今後も経済援助を前提に交渉できようが、日本にはそのように金の玉を持ち合わせた有力政治家はいない。イランと異なり、核問題はない。中国もロシアもイスラム原理主義の国内浸透を恐れ、アフガン内に封じ込めるために経済援助を西側に変わり行うもの。
タリバンは、アルカイダとは現在も同盟関係にあり、同種で敵対関係にあるイスラム国ISも3千人あまりの戦闘員を抱えているという。