アイコン なぜあの老舗は倒産したのか? 熊本の温泉旅館が直面した"見えない危機"とは


~伝統企業を襲う見えない危機~

熊本市北区で地元に親しまれてきた温泉旅館「長命館」が、ついに歴史の幕を下ろした。
2025年6月10日、(株)長命館(熊本市北区)は熊本地方裁判所より破産手続き開始決定を受けた。

創業は1914年(大正3年)。宮原大坪鑛泉(株)の名で長らく営業し、地元では「長命館」の屋号で親しまれてきた。法人化されたのは1925年と、100年近い企業史を持つ老舗旅館である。1993年に商号を「長命館」に変更し、最盛期の1994年には年収入高約8500万円を記録。2007年には金融機関の支援で施設を大幅にリニューアルし、再興を図っていた。

しかし、好機は続かなかった。2008年のリーマン・ショックで客足は鈍り、2017年には不動産差し押さえという危機に直面(後に解除)。そこへ追い打ちをかけたのが2020年以降のコロナ禍だった。観光需要の蒸発により業績はさらに低迷。2023年6月期の年収入高は約5000万円にまで縮小し、再建の目処が立たないまま2024年ごろに営業を停止。今年3月末に自己破産を申請していた。

時代に翻弄され、地域の記憶に残る旅館が静かに姿を消した。

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◆なぜ「長命館」は倒産したのか?

100年の歴史を誇り、地域に根ざしてきた老舗が、なぜ倒産という結末を迎えたのか。その背景には、外部環境の激変に加え、「老舗ゆえの構造的な弱点」があったと考えられる。

1. 再投資のタイミングとリスク判断の誤算

2007年の大幅リニューアルは、一定の勝負手だった。しかしその直後にリーマン・ショックが発生し、借入に見合う回収ができなかった。このような「過剰投資→外部危機→回収不能」というパターンは、地方の観光業でよく見られる。つまり、“タイミングの悪さ”が致命的だった。

2. 依存構造の危うさ

長命館は長らく「地元の常連客」と「団体観光」の需要に支えられていたが、時代とともにこの二つの需要が減少。個人旅行やインバウンド対応などの戦略転換が進まなかった。
「昔ながらの良さ」が「時代遅れ」になり、選ばれる理由が失われたとも言える。

3. 経営継承・イノベーションの欠如

老舗企業が直面しやすいのが「変化への抵抗感」。DX(デジタル化)やSNS活用、地域連携の仕組みづくりといった施策を導入できていれば、流れは変わっていたかもしれない。
「守るべき伝統」と「変えるべき習慣」を見極める経営判断が求められていた。

 

◆伝統は価値だが、盾にはならない

老舗という歴史は、信頼とブランドの源ではあるが、変化を拒む理由になってしまえば、それは足かせになる。
長命館の倒産は、まさに「伝統が未来を保証しない」ことを象徴している。

AIやインバウンドが当たり前の時代にあって、今後の地方旅館に求められるのは、「地域に根ざしながらも、時代に即した価値の再構築」である。長命館が残した教訓は、熊本だけでなく、全国の観光業に共通する重みを持っている。

温泉
※画像はイメージです

[ 2025年6月27日 ]
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