アイコン EVバッテリー損傷=軽微でも全損 保険会社の対応


EV(電気自動車)の多くは、事故によりバッテリーに軽微な損傷があっただけでも修理や評価が不可能になる。
保険会社としては、たいした距離も走っていない車両を全損扱いにせざるをえない。すると、保険料は高くなり、EV移行のメリットも薄れてしまう。

そして今、一部の国ではこうしたバッテリーパックが廃棄物として山をなしている。これまで報道されていなかったが、想定されていた「循環型経済」にとって手痛い落し穴となっている。

 

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SDGs(Sustainable Development Goals)
「EV購入の動機は持続可能性」。だが、ちょっとした衝突事故でもバッテリーを廃棄せざるをえないとすれば、EVはあまりサステナブルとは言えない」
バッテリーパックのコストは数万ドルに達することがあり、EV価格に占める比率は30~50%にも至る。交換するのは不経済である場合も多い。

フォードやGMなど一部の自動車メーカーは、バッテリーパックを修理しやすいタイプのものにしていると話しているが、テスラは、テキサス工場で製造する「モデルY」について逆の戦術を選んだ。   
構造材化された新たなバッテリーパックは、専門家に言わせれば「修理可能性ゼロ」だという。

ロイターが、米国・欧州でのEV事故車販売額を調査したところ、累積走行距離数の少ないテスラの比率が高かったが、日産、現代、ステランティス、BMW、ルノーその他の車種も見られた。
現役で走っている自動車のうち、EVが占める比率はごく小さく、業界全体としてのデータ把握は難しい。
だが、走行距離の少ない「ゼロ・エミッション」車が軽微な損傷で廃車になってしまう傾向は強まりつつある。
バッテリーパックを「構造材」にする、つまり車両ボディーの一部とするというテスラの判断は、製造コストの削減につながる一方で、そうしたコストを消費者や保険会社に転嫁するリスクがある。
テスラは、保険会社によるテスラ製車両の償却措置について、特に問題があるとはしていない。
だがイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は1月、第三者賠償責任保険会社が設定する保険料が「不当に高すぎる場合が見られる」と述べている。

テスラなどの自動車メーカーがもっと修理しやすいバッテリーパックを製造し、バッテリーセルに関するデータに第三者がアクセスできるようにしない限り、EV販売台数が増えるにつれて、ただでさえ高い保険料は上昇を続け、衝突事故後に廃車となる高年式車は増えていく――これが保険会社や自動車産業の専門家の見方となっている。

「事例は増えつつあり、バッテリーの扱いが重要なポイントになる」
EV用バッテリーの製造においては、化石燃料車の製造よりもはるかに多くの二酸化炭素が排出され、何千マイルも走行しなければ、そうした追加の排出量は相殺できないという(材料の鉱物資源製造のための石炭燃焼電力によるもの)。

「たいして走りもしないうちに廃車にしてしまえば、二酸化炭素排出量におけるEVの利点はほぼすべて失われてしまう」と指摘されている。
大半の自動車メーカーはバッテリーパックを修理可能としているものの、バッテリーに関するデータへのアクセスを提供する意志のあるメーカーはほとんどない。

EU圏では、すでに保険会社やリース会社、自動車修理工場が、自動車メーカーを相手に、利益率の高いコネクテッドカー(ネットに接続される車)に関するデータへのアクセスをめぐる争いを展開している。
争点の1つがEV用バッテリーのデータへのアクセス。
アリアンツでは、バッテリーパックに傷があっても内部のセルは無事である可能性が高い事例を確認しているが、診断データがないため、そうした車両も全損扱いにするしかないという。

フォードとGMは、新たなバッテリーパックでは修理可能性を高めたとうたっている。だが、複数の専門家によれば、テスラのテキサス州オースティン工場で製造される「モデルY」に搭載される大型バッテリー「4680」は、車体構造の一部を形成するパックに接着されており、取り外しや交換が容易ではないという。
マスクCEOは1月、テスラは修理コストと保険料の抑制をめざして車両の設計・ソフトウエアを変更していると述べた。
またテスラは、米国内12州で、テスラのオーナー向けに独自の保険商品を低料率で提供している。
なお保険会社と自動車産業の専門家によれば、EVは最新の自動運転等安全機能を搭載しているため、これまでのところ従来タイプの車に比べて事故の確率が低くなっているという。

<「スクラップ直行」>
ミシガン州を本拠とするムンロ・アンド・アソシエイツは、自動車解体事業者としてメーカーに改善のアドバイスを提供している。
同社は、「モデルY」のバッテリーパックは「修理可能性ゼロ」だと言う。「テスラの構造的バッテリーパックは、何かあったらスクラップ直行だ」という。

EV用バッテリーの問題が明らかにしているのは、自動車メーカーが喧伝する環境に優しい「循環型経済」に潜む落し穴となっている。

英国の解体事業者最大手サイネティックは、同社ドンカスター工場では、火災リスクを避けるための点検を行う(人里離れた)「アイソレーション・ベイ」に収容されるEVの台数が過去12ヶ月間で急増しており、3日で12台程度のペースだったのが、1日最高20台にまで上昇していると話している。

「実に大きな変化が起きており、しかも車種はあらゆるメーカーに渡っている」としている。
英国には今のところEV用バッテリーのリサイクル施設がない。
サイネティック社としては、廃車となった車から外したバッテリーをコンテナに保管している。サイネティック社がドンカスター工場で保管している数百個のEV用バッテリーパック、そしてハイブリッド車用バッテリーパック数千個に内蔵されたセルのうち、少なくとも95%は無傷で、再利用が望ましいという。

現状でも、ほとんどのEVの保険料は他車よりも高い
オンライン保険比較サイト「ポリシージーニアス」によれば、2023年、米国におけるEVの月払い保険料は平均206ドルで、化石燃料車に比べて27%高くなっている。
また金融情報サイト「バンクレート」は、「ちょっとした事故でもバッテリーパックに損傷が生じれば、この重要部品の交換コストが1万5000ドル(約200万円)を超える可能性がある」ことを米国の保険会社は把握している、と述べている。

テスラの「モデル3」のバッテリー交換コストは最大2万ドル。同車種の小売価格は約4万3000ドルだが、資産価値が下がるペースは早い。

フランスの保険会社アクサで英国製市販車部門は、交換コストが高いため、「バッテリー交換は合理的でないという状況もあるかもしれない」と話している。

EVの修理、バッテリー交換に特化した修理工場も増えつつある。
アリゾナ州フェニックスのグリュバー・モーターは、テスラの旧モデルのバッテリー交換に注力している。
だが、修理工場オーナーのピーター・グリューバー氏によれば、保険会社としてはテスラのバッテリー関連データにアクセスできない以上、慎重なアプローチをとることになる。
「保険会社は、リスクを取ろうとしない。そのクルマに何かが起きれば後日訴訟になってしまうし、そこまで計算に入れていないからだ」という。

<EV保険の「弱点」>
英国政府は、EV保険の「弱点」に関する、サッチャム・リサーチ、サイネティック、保険会社のLV=を中心とする研究に資金を提供している。
EUが先日採択したバッテリーに関する規則は、バッテリーの修理について具体的に触れてはいないが、欧州委員会の関係者によれば、「メンテナンス、修理、再利用を促進するよう」規格制定を促すよう求める内容になっているという。

保険会社は、問題解決の方法は分かっていると主張
バッテリーを手軽に修理できるようもっと小さなセクション(モジュール)に分割し、診断データを外部に公開してバッテリーセルの健全さを判断できるようにする、というものだ。
米国の個々の保険会社はコメントを控えるとしている。
だが、全米相互保険事業者協会でディレクターを務めるトニー・コット氏は、「車両が生成するデータに消費者がアクセスできるようにすれば、修理プロセス全体が容易になり、運転者の安全と保険契約者の満足度はさらに高まるだろう」と語る。

3月中旬、テスラを相手取ってカリフォルニア連邦地方裁判所で起こされた集団訴訟では、重要な診断データにアクセスできないことが問題視されている。
保険会社は、この点での動きがなければ消費者が犠牲になると主張している。
ドイツの保険大手のアリアンツの自動車保険請求全体のうち、EV用バッテリーの損傷はほんの数パーセントを占めるにすぎないが、請求の8%はドイツ国内におけるものだという。
ドイツの保険会社は自動車保険の請求に関するデータを集約しており、毎年、保険料率の調整を行っている。
「特定のモデルでコスト上昇が見られるなら、レーティングが上昇する分、保険料の水準も上がる」という。
以上、ロイター参照

モジュールをいくつかに分け、損傷しているかどうか、世界機関が認証した検査装置により診断できるようにすれば、多くの問題は解決される。
EVにより車両価格が高騰、それも電池価格が高い3元系ではなく、安価なリン酸鉄系になっても車両販売価格は大して下がらないだろう。価格は比較により設定される。

バッテリー価格は3元系=100(車両価格の30~45%)、コバルトを使用しないリン酸鉄系では70%、現在中国勢が急速に進めているナトリウムイオン電池(コバルトもリチウムも使用せず)は、リン酸鉄系のさらに70%まで下がるとされる。
ただ、ナトリウムイオン電池はまだ車両用としては、安全性は高いものの、航続距離や出力の問題も多く、ESS向けやバイク用に限られている。
日本はナトリウムイオン電池の先駆者である日本碍子がNAS電池としてESS向けに販売している。しかし、ESS向けにほとんど限られている。

規模を大規模化し、巨万の利益を確保し、そのほとんどを更なる投資にまわすサイクルが、石橋も渡らない、小銭を溜め込むだけの日本企業にはない。
電池事業でし、巨万の利益を稼ぐ韓国勢、中国勢の企業からそうした分野もすべて駆逐されることになる。半導体・ソーラーセルともにかつて世界一だった日本の面影は今は微塵もない。
中国では不景気になればさらにロボット化を進め、生産性向上を目指してきた。
日本企業はアベノミクスで空前の利益を得ても内部留保に務め、株主に還元することはあっても、従業員には還元せず、生産性向上の投資も行わず、生産コストは高いまま今回の物価上昇に陥り、利益を損ない販売価格を安直に上昇させ続けている。
経営能力もなく権謀術だけに優れたサラリーマン社長たちの限界だろう。それも利益第一主義に走った大企業経営者たちによる不正は留まるところを知らない。今では頭を下げて終わりで済ませている。それはトヨタの牙城にまでに迫ってきている。


 

[ 2023年3月27日 ]
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