諭座!郷原信郎「選挙コンサル」は民主主義の救世主か、それとも単なる「当選請負人」か。その1
元特捜検事の郷原信郎 弁護士
久し振りに胸がスカ~トするような本格的な「公選挙法諭」ともいうべき珠玉のブログを紹介したい。
少し長いので4回に分けて連載させて頂きます。
一気に読みたい方は下記のリンクからどうぞ。
長崎県知事選から考える、選挙関係者への報酬ルール整備の必要性
郷原信郎 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
1955年、島根県生まれ。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2006年に弁護士登録。08年、郷原総合コンプライアンス法律事務所開設。これまで、名城大学教授、関西大学客員教授、総務省顧問、日本郵政ガバナンス検証委員会委員長、総務省年金業務監視委員会委員長などを歴任。著書に『告発の正義』『検察の正義』(ちくま新書)、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『思考停止社会─「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)など多数。
https://webronza.asahi.com/politics/articles/2022102200002.html
「選挙コンサル」は民主主義の救世主か、それとも単なる「当選請負人」か。
「選挙コンサルタント」という職業が、最近、注目をあつめている。
「候補者と共に選挙戦を勝利に導くため科学的根拠に基づいた調査・戦略・戦術の企画を行う者」としての「選挙プランナー」が原形であり、候補者に適した選挙キャンペーンのプランニング、アドバイス等を的確に行うことで有権者の支持を拡大し、当選を果たすための、合理的な選挙戦略の策定をサポートする仕事である。
それが、公職選挙に立候補しようとする者自身に対する助言・指導だけではなく、候補者の当選のため、選挙全般にわたって、当該候補者の陣営をサポートする活動を業務として行う「選挙コンサルタント」として、選挙陣営内部に入り込んで「選挙参謀」的に関わるようになると、「選挙運動」と境を接することになる。
特定の候補者の当選をめざして活動を行う「選挙コンサルタント」が、報酬を受領することは、公職選挙法221条1項の「当選を得若しくは得しめる目的をもつて選挙運動者に対し金銭を供与する」という買収罪に当たる可能性が生じる。
2020年に放送された選挙コンサルタントを描いたテレビ朝日ドラマ「当確師」の冒頭のシーンでは、候補者の陣営の会合で、主演の香川照之が演ずる選挙コンサルタントが「選挙参謀を務めているのはあくまでボランティアで、報酬などもらっていない」と言ったのに対して、陣営幹部が「こっちは1000万円以上のコンサル料を……」という言葉を遮って、「政治活動支援費のことでしょうか。であれば告示前までのアドバイスに対する報酬、告示後にコンサルが報酬を受け取れば公職選挙法違反になる。だから、今はただのボランティア」と言い放ち、陣営側を唖然とさせるシーンがある。
ドラマだけに表現は露骨だが、実際の選挙コンサルタントの活動と報酬の実態を反映したものと言えるだろう。
選挙コンサルをめぐる買収罪での摘発事例
しかし、活動全体がボランティアというのであればともかく、候補者の当選をめざす一連の活動のうち、「告示前は有償」「告示後はボランティア」という説明は通りにくい。選挙コンサルタントが、公示後の選挙期間中も選挙運動に直接的に関わることを前提に、公示前に報酬を受領したのであれば、「特定の候補者に当選を得させるための活動」の対価を受領したと認められ、買収罪が成立する可能性が生じる。
最近の選挙では、選挙運動を取り仕切る選挙コンサルタントの活動が、一層露骨に行われるようになり、一部では、公選法違反事件となっている。
2019年4月の大阪市議会議員選挙をめぐり、選挙カー運動員4人の手配名目で、仲介した男性らに報酬を含む約75万円を支払ったとされて公選法違反(買収)に問われた事案で、弁護側は「仲介者は『選挙コンサルタント』であり、選挙運動者ではない」と主張したが、「選挙コンサルタントを名乗っていたからといって、その活動が選挙活動でなくなるわけではない」とされ、懲役1年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡された事例もある(産経【「グレー」な選挙コンサルへの報酬 セーフ、アウトの線引きは】)。選挙コンサルタントの活動が、選挙運動そのものに及んでいる実態を表すものと言えよう。