【映画】「すばらしき世界」 きっと寅さんが生きにくい世界
2月11日に公開された映画、西川美和監督(『ゆれる(2006年)』『ディア・ドクター(2009年)』『永い言い訳(2016年)』)の「すばらしき世界」。
これまでは自身の原案、オリジナル脚本での作品を撮ってきた西川監督がノンフィクション小説「身分帳(佐木隆三)」を原作に映画化。
小説の時代設定を現代に置き換え、実在の人物をモデルとした主人公が刑期を終え社会復帰するまでの苦悩を描いた社会派作品となっている。
主演は主人公である三上役の役所広司、あることをきっかけに三上を取材する津乃田役を仲野太賀、ほかに長澤まさみや橋爪功などが出演している。
<ストーリー(ネタバレあり)>
話は三上が刑期を終え刑務所から出所するところから始まる。
三上の罪状は「殺人」。
13年前、元妻の経営するスナックに殴りこんできた若い組員を日本刀でメッタ刺しにして殺したことによるもの。
だが、その罪以前にもなんども刑務所に入ったことがあり、人生の大半が檻の中という人物。
そんな刑務所から出所したばかりの三上を、あたたかく迎え入れてくれる堅気の人たちに見守られ、なんとか社会復帰に努めていた。
しかし、三上は日が経つにつれ、自分の思い通りにならない腹立たしさと誰にも認められない悔しさから、福岡にいる昔の仲間の下へいってしまう。
福岡についた彼を迎えたのは組員の舎弟らしき若者。
しばらく世話になるものの、その場所もまた彼の居場所にはならなかった。
苦しみながらも社会に溶け込もうとする三上はやがて周りの支援もあり、職をみつけ生きがいを感じ始め、ラストシーンへと向かう。
<感想>
途中、三上の社会復帰までをドキュメント番組にしようとする津乃田とのほのぼのとした絡みから一転、三上の暴力的な顔がみえたところから景色が変わる。
一度、社会から道を踏み外した人間が更生するのはどれだけのハードルがあるのか、一般社会との境界線がわからない人たちとどう接すればいいのか、津乃田が戸惑うのもわかる。
役所が、三上のまっすぐで正直な性格と激情してなにをするかわからない不気味な側面を良く演じ分けていたのは素晴らしかった。
親身になってくれた行きつけのスーパーの店長に博多弁で強がって啖呵を切るシーンが、身近な元ヤンの人そっくりなのがまた良い。
だが、あちらの世界の人間は実際付き合うと別世界の人間だと身に染みることがある。
監督自身も、元反社の人に取材はしたとは思うしそういう資料などもみただろうし、そう演出していた。
ただ、津乃田があまりにナイーブなのがいただけなかった。
裏社会で飯を食ってた人らは普通に生きていれば目のあたりにしないような光景を山ほど見ている人たちだ。
オレオレ詐欺でもわかるように、弱者は彼らにとって養分であり商売のタネ、正義という文字は一欠けらもない。
金の為ならどんな汚いことだろうが、泣いているやつがいようがお構いなし。
コチラ側からみればまるでなにか感覚が麻痺しているかのようにも映る。
そんなこちら側とあちら側の対比の場面、違う世界の人間の集まりである福岡の三上の知り合いの組の最後が、なにかコントみたいにみえてしまったのが残念。
本当に自分らと(反社ら)は違う人種なんだということをシリアスに描ききれていればもっと対比がうまれ、陰影がはっきりしたはず。
もしかすると監督の原作への迷いがどこか映画の輪郭をぼやけさせてしまったのかもしれない。
寅さんの時代もはるか昔、いまの世界はヤクザものが生き難い世の中になっている。
「白と黒」でバッサリ分けられ、ちょっとしたことでも捕まり、住むところも働く場所も制限される。
一般人としては暮らしやすくなった時代ととらえられることもできるが、泥水の中でしか生きていけない魚がいることも確か。
はたして「任侠の世界」の人たちからみる「すばらしい世界」の人間は同じに見えるのか・・・。
これは「身分帳」という原作があるが、映画と違うところがいくつかあり、こちらも読みごたえがありいい作品だ。
もし原作を読んでいないならぜひおすすめしたい。