アイコン 露制裁はブーメランになる可能性も秘めている 世界分裂の危機


2月24日に始まったウクライナ戦争において、銃弾が行き交う実際の戦場より、はるかに大きく決定的な激戦が起きている場所は、対ロシア制裁をめぐる国際経済の舞台。

米国などは、直接の参戦は控えつつ、ロシアを屈服させるためにすさまじい経済制裁を続けている。これは、戦後70年ほど続いた米国の覇権と国際秩序の威力を誇示するものでありながら、その終末を早める可能性のある「危険な選択」になりうるという指摘が続いている。

米国と欧州連合(EU)などが主導する対ロシア制裁は、
1、ロシア産エネルギーなどに対する輸入禁止措置
2、主要企業のロシアからの撤退
3、国際金融決済ネットワークのSWIFTからのロシア排除
  SWIFTは200以上の国と地域の金融機関が参加する世界的な決済ネットワーク。1日当たりの決済額は5兆ドル、日本円で575兆円にのぼる。
4、ロシア中央銀行の外貨準備高の凍結
など。
このうち、ロシアに対する禁輸と企業撤収は実体部門、金融ネットワークからの排除と外貨準備高の凍結は金融部門に対する制裁となっている。

 

スポンサーリンク

ロシア経済の実体と金融部門を同時に攻撃する今回の措置は、第2次世界大戦後に米国が個人・団体・国家に科した各種制裁でも経験したことのない「前例のない制裁措置」となっている。
過去20年間、米国の金融制裁を考案してきたフアン・ザラテ元ホワイトハウス副補佐官(国家安全保障担当)は、6日付の英国紙「フィナンシャル・タイムズ」で、「想像できるすべての方法により、ロシアの金融と商業体系を絶縁させるという攻撃的なもの」だと評している。

同紙は、特に世界の地政学的な秩序の一軸を成す国家であるロシアの外貨準備高を凍結した措置は、「敵を懲らしめるために、米国のドルとは異なる西側国家の通貨を武器に使ったものであり、極めて新しい形態の戦争」だという評価を出した。
大規模な制裁だっただけに威力は強力。

3月7日、制裁の発表後、ロシアのルーブルの価値は、1ドルあたり75ルーブルから一時は半分の138ルーブルにまで暴落した。西側の銀行に預けられていたロシアの外貨準備高が凍結され、ロシアは現在、事実上のデフォルト(国家債務不履行)の危機に陥っている状態。
以上、報道など参照

ロシアは資源国、暴落したルーブルは制裁から2週間後には元に戻している。一方、西側は露制裁によりすでに新コロナからの経済回復で物価が上昇しているなか、さらに高騰。特にエネルギーコストは自動車燃料や電気代、ガス代金に跳ね返ってきている。露制裁には欧州の国民は総じて賛成だが、貧困層・労働者層は目先の電気料金などの物価高騰問題を深刻となっている。
ウクライナを支援している欧州国の現政権は安泰というわれではない。
フランスでもNATOから脱退すると公約している極右のルペン氏が決選投票に挑むほど人気を得、マクロン現大統領との支持率の差も一時縮めていた。今では10ポイントの差をつけているマクロンが勝利しようが、トランプと喧嘩した独仏のNATO問題は、欧州軍創設構想に発展、米主導のNATOも一枚岩ではない。

ロシアはウクライナのクリミア半島略奪の2014年にもオバマ政権の米国と欧州・日本などから経済制裁を受けたが今回はその比ではない。しかも、その経済制裁でループル暴落、窮地に陥ったロシア経済だった。ただ、世界一の人口を抱える中国が天然ガスを新たにパイプラインを建設して長期に購入するという契約をなし、ロシアは経済立て直しの端緒をつかんだ。
その教訓から、欧州などへの膨大なエネルギーの販売代金をドルではなく、中国元や金で保有し、露制裁の実効を和らげている。

今回は、世界第2位の人口を抱えるインドが原油購入の長期契約をしている。それまでロシアからはほとんど購入していなかった。
ドルを介さずインドはロシアへ優先的に輸出でき、ロシアからは原油だけではなく、穀物も輸入できる。今回の原油購入の長期契約は相場の2割引の価格で契約されたといい、原油相場が高止まりやさらに上昇すれば、外貨に不安がある多くの新興国は購入できなくなり、ロシアから直接2割引で購入することを選択することになる。

すでにスリランカは外貨不足でイランから購入した石油代金が払えず、特産の紅茶で支払うことで決着している。

世界は米国および欧州がリードしているように見えるが、ロシアに対し人権委資格停止投票で放逐された投票結果を見れば、国連加盟193ヶ国のうち、賛成は93ヶ国で半分に満たない、反対は24ヶ国、棄権は58ヶ国、そもそも会議に参加しなかったか投票しなかった国が23ヶ国である。
賛成した国より、残りの100ヶ国が問題だ。
ほとんどが中国がインフラ投資で手懐けた国、またロシアと昔から付き合いが濃いインドや南アフリカが含まれている。
経済成長が著しい国としてBrics5ヶ国があるが、いずれも賛成票を投じていない現実がある。
これまで、アメリカや欧州は自らの利害でしか動かず、中国がその間隙を縫い米国のお膝元の中南米や南アメリカにも多くの関係国を築き上げ、アフリカは特に多くの国と関係している。最近は南太平洋の小国を狙っている。

このように中国と資源輸出国のロシアが結託すれば対立経済圏の構築さえ現実のものとなる。
すでに中国はブロックチェーンを地方や企業間で稼動させ、デジタル人民元も稼動させている。こうした国々がブロックチェーンで結びつき、決済手段としてデジタル金で統一された場合、SWIFTの機能は色あせてしまうことになる。

こうした問題が発生するのは、政権担当者がコロコロ変わり、一貫性のない民主主義国家の宿命でもある。

さりとて、長期政権は独裁政権と同じ、内部の敵を駆逐、求心力を維持するため、猜疑心が強く、敵を作りやすく、攻撃してしまう。今回のロシアのように。
中国も異端の3期目を狙っており、長期政権の類に入ろうとしている。

米中はいろいろな面で喧嘩しているが、互いに濃い交易関係にあり、離婚できない現実が横たわっている。
特に米国の消費材などは中国製に依存しており、米アップル社のiPhoneだって中国製だ。中国が米国産牛や豚を買わなければ米国の畜産農家はパニックに陥る。
そうした中国との交易関係は特にオバマ政権の1期目に濃くなっていた。

結果、2021年の中国から米国への輸出額は前年比27.6%増の5,766億434万ドル、中国の米国からの輸入額は32.9%増の1,794億6,563万ドルで、輸出入額ともに過去最高を記録している。結果、中国の対米貿易収支は3971億3871万ドルの黒字で、この黒字が一帯一路の覇権戦略用インフラ投資に回され、膨大な国防費に回されている。
米バイデン大統領は、息子がウクライナと中国から過去銭を貰っており、よほどのことがない限り、トランプのような強力な中国たたきは行わないと思われる。トランプは中国嫌いな経済保守重鎮たちを閣僚に任命し、体系的に中国たたきを実践していた。そうした人材はバイデン政権には見当たらない。

世界はロシアに対し、何よりも戦争を1日でも、1時間でも早く止めさせることが必要ではないだろうか。

 

[ 2022年4月22日 ]

スポンサーリンク
 

 

 


HTML Comment Box is loading comments...



※記事の削除等は問合せにて。

スポンサーリンク
 

 

関連記事

 

 



PICK UP


破産・小口倒産一覧