アイコン サムスンが求められる企業の現在・将来へ向けたデザイン


李健熙会長の経営哲学は、元京セラ研究所の福田民郎氏の「福田報告書」の結果、生まれた1997年の「知行33訓」にある。その1訓目には「危機意識」、2訓目が「未来の洞察」、それは「知って、行動して、人を使って、教えて、評価せよ」により構成されている。

福田報告書を受け、李健熙会長は役員たちに対して「妻以外すべて捨てよ」と常に非常事態を意識して各事業の経営にあたれというもの。
業績が過去最高であっても、それは過去の経営の成果であり、現在の経営は将来の業績のためにあるというものだ。

しかし、現実には、販売中止に追い込まれたスマホのバッテリー問題、アマゾン用システム半導体の不良問題、ファブレスのクアルコムから受注したSoC「Snapdragon 8+ Gen 1」の発熱問題、自社スマホGOSデフォルト問題など、いまだ多くの問題も抱えてもいる。
量産化における製造設計の妥当性を検証する試験ラインなど充実させているファンドりー一筋35年のTSMCに1日の長があるようだ。これを受けクアルコムは当該SOCの製造をサムスンからTSMCに変更している。

李健煕会長は、1993年に役員や社員の危機意識のなさに、10万台あまりの問題の携帯電話や家電品を一同に集めさせ、従業員に叩き壊させたことからすべてをスタートさせた。

 

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前回のリーマンショックにおける半導体需要の低迷による業績不振では、スマホが2008年に開花し、2015年まで牽引した。しかし、スマホの世界需要も年間15億台で頭打ちになり、アップルとのプレミアム市場での市場争奪戦、それ以外の機種では廉価な中国製との戦いに終始し、業績に大きな貢献はできなくなった。

それと交代するかのように半導体が2014年ころから再浮上し2018年まで業績を牽引した。

2018年には新工場が完成したことから、在庫増となったメモリ半導体に変わり、新工場をファンドリー事業へ展開させ同事業を急拡大させた。20年からの新コロナパンデミックにより、テレワークや自宅学習のため、PCやタブレット、サーバー需要が急増し、半導体特需が生じて業績を押し上げてきた。
しかし、新コロナ特需も世界各国が今年からウィズコロナ策に転じて一巡、現在、業績を牽引してきた半導体は、世界経済の低迷もあり冬の時代を迎えようとしている。

次の戦いは、次の業績を牽引する事業は何か、サムスンでは模索が続くが、ファンドリー事業も同社は2030年までにシステム半導体で世界一になると宣言しており、有力ファブレスメーカーも製造委託を最新製品については見送る傾向に出ており、システム半導体のメーカーにはならないと公約した世界の受託生産量の半分以上を占める台湾のTSMCに発注が流れている。

米国のインフレ抑制法による圧力、
中国・西安での半導体生産も1年間の猶予をもらったものの、1年後には米国から米企業製製造装置や米企業の技術が入った装置の中国工場への輸出が難しくなるおそれがあり、そのサービスを受けられなくなるおそれも出ている。

さらにファンドリーの巨大工場を米政権のごり押しで米進出を決定しており(これまで1ヶ所進出済)、米国のインフレ抑制法の影響を大きく受ける可能性すらある。

こうした米工場が動き出させば、韓国から輸出していたファンドリー製品が米工場製に切り替えられ、韓国政府が懸念する輸出にも影響してくる(輸出主体の韓国経済での産業の空洞化)。当然、海外生産の韓国還流の政府圧力も加わってくる可能性もある。(米国のファンドリー事業では、サムスン・インテル・TSMCがいずれも巨大工場を米国に建設中、市場が今後急拡大せず価格競争に陥れば、半導体産業は厳寒の時期を迎える可能性もある)

世界経済は高インフレ、インフレ退治に米国が短期に強力な金利上昇策を行使、結果、経済低迷は明らかであり、すでに米国の経済指標の多くが低迷の指標となっている。しかし、労働や賃金に関する指標はまだ高く、さらに金利上昇が予想されている。

米国以外、日韓含む世界各国は、輸入商品価格の上昇に加え、米金利高・為替安による輸入価格の上昇によるインフレの2つの要因に苛まされている。

こうした状況下、インフレ抑制法による補助金支給制約がある米国製EVを除き、20年のEV普及年の再来の見通しも立たず、しかも普及したとしても半導体需要も車両用ではパワー半導体が主力、サムスンの巨大工場を満たす数量の生産には程遠い。メモリ半導体ですら車両用は振動に耐えうる製品が求められている。

元々、サムスンの主力だった家電製品は今では利益は出ておらず、同社を牽引する業務ではなくなっている。スマホも同様であり、半導体で生き残りをかけているが、メモリ半導体からシステム半導体への展開は、米国のような大学等での基盤がなく韓国で創出することは並大抵ではない。
ファンドリー事業も上述のとおり、システム半導体を開発するファブレスメーカーにとっても技術流出と紙一重であり、同社の動きに慎重にならざるを得ず、TSMCに流れる原因ともなっている

これまで、同社はマネからスタートし、品質向上に努め、それを独自に進化させ続けた結果、世界№1のメモリ半導体の会社となった。しかし、自ら境地を切り開いた製品はないなかでの快進撃を遂げさせてきた「知行33訓」が、再び頭をもたげてきている。
(GEのジャック・ウェルチの市場占有率NO1と2の事業に特化した経営でさえ、時代に乗り遅れた場合、そうした事業でさえ淘汰される時代だ)

AIにしろ、画期的な製品を作り出さない限り、世界では標準化されず、生産量も限られ、コスト競争から、淘汰される可能性もある。それは今回の3Dセンサーからの撤退でも窺われる。

「知行33訓」の前提は、福田報告書であり、福田氏が描く企業の現在・将来へ向けたデザインを描くことこそ、今のサムスンに求められているようだ。

サムスンは手元流動性資金も10兆円ほどあり、有効に使い、頭脳の集積地である米国のベンチャー企業やヒトを、新規有力分野の開発案件ならば買収し、サムスンの頭脳集団に組み込むことが必要となっているようだ(特許期間が限られているスーパー医薬品業界は既にそうした動きに走っている)。

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[ 2022年10月18日 ]

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