レアメタル戦争へ発展、米中貿易戦争 関税爆弾投下の消耗合戦
米国の関税戦争が中国との一対一の全面戦争の様相に突き進む中で、レアアースなど核心鉱物が大挙して米国の相互関税を避けることになった。米国が中国に対する関税率を大幅に引き上げながらも、「核心資源」だけには手を出せなかったのだ。
こうした中、米政府がレアアースなどが含まれる海底鉱物「マンガン団塊」の備蓄を推進するとの報道が出た。関税戦争が原材料戦争に飛び火するか注目される。
<米国はレアメタルなどを相互関税から除外>
米国が4月9日発表した相互関税の付属書では、希土類金属=レアメタルと各種希土類酸化物および塩化物などが大挙相互関税賦課対象から除外されている。
レアアースは電子製品をはじめ、電気自動車、風力発電機、兵器など様々な産業分野の必須アイテムとなっている。
レアアースだけでなく、EV用バッテリーに使用する天然黒鉛やコバルト、各種リチウム合成物なども相互関税賦課対象品目から除外されている。米国もこれらの金属品目の中国依存度が高く、中国外や自国での調達網構築には4年以上かかる。
●ウクライナのレアメタル資源を狙うトランプ米政権、
今やレアアースは最先端医療器械や最先端兵器の必須アイテムとなっているのが現実。そうしたこともあり、ウクライナの鉱物資源獲得にこれまでの米国供与金の3倍にも及ぶレアメタル鉱物の採掘権益を求めている。一旦担当レベルで合意に達したが、2月28日、ホワイトハウスで。トランプとゼレンスキーが口喧嘩、プライドを落とされたトランプは怒り狂い、鉱物資源だけではなく、原油や天然ガスの採掘の独占的権益も組み入れるようにウクライナに迫り、現在、契約には至っていない。
金の・・をなくした欧州勢は、それを知りながら、トランプに対して言うことをすべてためらっている。
ただ、米国抜きでウクライナに対して長期500億ユーロの支援を決定(2025/2/6)。しかし、今年分のロシア戦継続のための軍事支援金50億ユーロさえ、欧州協議ではまとまらなかった。
トランプ政権は昨年12月議会でウクライナ支援を否決させ、以降、軍事支援を停止している。
ドイツ議会は3月22日、2025~29年の5年分のウクライナ軍事支援金として計110億ユーロを予算決議している。
EU外相は前のめりに今年のウクライナに対する支援金として400億ユーロを要請しているが、実際の各国の負担では50億ユーロでさえまとまらないのが現実となっている。
●レアメタルの一例として、
電気自動車の駆動モーターなどの製造に使われる「ネオジム磁石」は、米国の中国依存度が84%(2024年)に達し、スカンジウムやイットリウムなどの希土類金属の中国依存度は78%、他の希土類酸化物と塩化物の依存度も75%に達する。
電気自動車のバッテリー素材で、陰極材の原料である天然黒鉛の中国依存度は68%、コバルトは41%あまり。
<中国は核心鉱物のグローバル供給網を掌握>
中国は全世界のレアアースの約70%を生産するだけでなく、精錬や製錬などの加工プロセスを独占している。
全世界で採掘される黒鉛の90%ほどが中国で精製され、精製コバルトの75%以上は中国産。
(コバルトはコンゴ民主共和国の生産量が世界の7割以上に達するが、その採掘権のほとんどを中国企業が持ち、含有鉱石を中国へ移送し、中国で、安価な石炭発電力により溶融され抽出されている)
<レアメタル供給網が武器に>
中国は圧倒的なサプライチェーン支配力を武器化する準備をすでに終えている。
昨年末、民生・軍用の二重に活用できる品目の輸出を政府が制限可能にする法的根拠として「二重用途品目輸出統制条例」を制定した。
4月7日、米国が4月2日発表した中国に対する9日からの相互関税34%(+20%=54%)に対し、中国は報復の対抗措置として10日から34%の関税を全輸入品に課すと発表、それに対し、トランプは中国の報復に怒り狂い、関税率をエスカレートさせ続け現在では中国からの輸入品に対して145%の関税を課している(中国も対抗して125%の関税を簿異国からの輸入品にかけている)。
中国は7日、次のレアアース7種について、輸出を当局の許可制にするとも発表していた。
●サマリウム、62、
(サマリウムコバルト磁石、ネオジウムよりキューリー温度が高い、触媒や試薬に用途)
●ガドリニウム、64、(用途:中性子捕捉療法の中性子吸収剤、X線源)
●テルビウム、65、(磁性膜材、印字ヘッド材)
●ジスプロシウム、66、(レーザー材、照明材、ハードディスク材、永久磁石)
●ルテチウム、71、(触媒、蛍光体)
●スカンジウム、21、(高価、アルミ合金材、陽極添加剤)
●イットリウム、39、(触媒、電極材、酸素センサー、用途多い)、
の7種、数字は元素番号。
これらのレアアースは、X線、MRIなど医療必須アイテムやレーザー砲の兵器必須アイテムにも入っている。(レーザー砲は米中が開発にしのぎを削っている)
中国はこれまでにも、2023年8月から半導体製造の必須アイテムの●ガリウム、●ゲルマニウムを、2023年9月には●一部の黒鉛(EV・ESSバッテリー用)を、2024年9月からは●アンチモン(半導体必須アイテム)を輸出規制している。
ただ、需要国ではこれらの輸出規制の影響は限定的、長期的には価格高騰の恐れがあるとしていた。
米、マンガン団塊を採掘・備蓄へ
こうした中、英フィナンシャルタイムズは、米政府が「マンガン団塊」を国家戦略物資として備蓄するようにする行政命令草案を準備していると報じた。
マンガン団塊は深海底にある鉱物資源で、主成分であるマンガンの他にも鉄、ニッケル、銅、コバルトなどの金属成分も含んでいる。
フィナンシャルタイムズは「深海鉱物採掘権確保と精錬施設準備を促進するためのもの」とし、「海底鉱物の採取が米国と中国の経済的・軍事的競争の戦線に浮上している」と報じている。
(戦略なき日本は、日本のEEZ内の深海のレアアース鉱床群の採掘も、費用対効果を優先させ、試掘だけして放ったらかしにしている。)
●「マンガン団塊」とは・・・
ハワイ沖やインド洋の海底4千~6千mに5~15センチ程度の球状のマンガン団塊が分布、
マンガン団塊の化学組成は、場所によって異なるが、マンガン(27~30%)、ニッケル(1.25~1.5%)、銅(1~1.4%)、コバルト(0.2~0.25%)を含んでいる。
また、別種のマンガン団塊では、鉄(6%)、ケイ素(5%)、アルミニウム(3%)とそれより少ない量のカルシウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、チタン、バリウムを主に水酸化物として含んでいる。
採掘地が異なれば、組成化学物質も異なり、ほかのレアアースも期待できる。
ただ、中国が掌握しているレアアースをカバーできる種類と量は現在のところ無理難題のようだ。任期4年のトランプ流の気持ちの問題だろうが、レアアースの代賛品はレアになるほど難しい。
現在米国のリチウム鉱石はほとんどが中国へ輸出され、中国の安価な石炭電力により溶融され抽出され、中国企業が販売している。米国内でのリチウム生産を拡大するにも、電力価格や労務費など生産コストが米中では違いすぎ、米国内でのリチウム金属の国内生産拡大は計画通り進んでいない。米国では世界最大のリチウム鉱床(埋蔵量:最大4千万トン)がネバダ州境の「マクダーミット・カルデラ」で発見されている。世界最大級の生産量のオーストラリアもリチウム鉱石をクラッシャーにかけ、採掘量の95%以上を中国へ輸出し、米国産と同様、中国でリチウムを抽出している。
コバルトも埋蔵量7割以上の今後民主共和国でのコバルト鉱山の採掘権のほとんどを中国企業が掌握し、クラッシューにかけ、はるばる中国へ移送し、中国でコバルトが抽出されている。
2000年代から本格化した一帯一路世界覇権戦略=中華思想の具現化戦略は、中央・南アメリカ、アフリカ、東欧などへ巨額のインフラ投資、投資相手国を借金の漬物国にし、その見返りにオーストラリアのダーウィン港のように世界中の国で99年間の租借権を取得するか、鉱山の採掘権などの利権を取得するなどして、借金のカタにし、経済的に服従させている。
リビア除くアフリカの原油採掘開発のほとんどの国は中国の手によるものでもある。各種金属鉱山開発やレアメタル採掘もしかり。パプアニューギニアやインドネシアでは大規模なニッケル鉱山の採掘権を有し採掘を行っている。
<トランプは、地球温暖化は周期説論者>
トランプは、環境悪化による地球温暖化については否定論者、地球の冷暖周期説による温暖化を主張し、普通の人ではない。
現在、膨大なAIデータセンターの消費電力についても、石炭発電でまかなおうと主張している。ソーラー発電や風力発電などは発電コストが高く、政府補助金が頼り、そうした政府支出を拒否するトランプ政権でもある。
韓国のハンファQセルズ(元、独社)などは米国へ進出し、米エネルギー省と提携(2024/5)してソーラー発電セル(モジュール)の生産拡大をはかっている・・・トランプ政権でどうなることやら・・・。ただ、マイクロソフトとも提携しており、MS分はデータセンター用として自社用途で買い取ることだろう。(今や最大の価格競争力と性能を持つ中国勢は米国の壁が立ちはだかり、中国に対する145%の関税障壁も韓国勢に大きな恩恵をもたらすと韓国紙は掲載している。)
長期国家・企業戦略では、トランプ政権はあと4年もない。各国首脳は、目を瞑ってやり過ごすか、果敢に対応し、弄ばれるかの選択を迫られている。
独裁国以外、各国の政権のすべては選挙に関係し、トランプ政権に対応するしかないのも現実。
EVについては、マスクとの関係があり、表立って否定しないが補助金カットなどを進めている。
以上、