韓国GM 撤退への布石か 研究開発部門を会社分割 販売不振で再建不能か ストへ
韓国GMは19日、臨時株主総会を開き、問題になっていた「会社分割」案件を議決し、「(仮)GMテクニカルセンターコリア」の設立を決定した。
米ゼネラルモーターズ(GM)の子会社であり、単一法人の韓国GMから研究開発部門を切り離して、別法人を設立するのが主な内容だった。
現在の韓国GMの株主構成は、GM本社と系列会社が77%、韓国政府系産業銀行(KDB/産銀)が17%、中国上海汽車が6%を保有している。
会社分割・新設会社の設立には、産銀と取り決めた「特別決議事項」には該当せず、産銀は開催を阻止するため、裁判所に総会開催の無効を裁判所に提訴した。しかし、契約条項や法律で無効とする根拠がなく却下され、当事案は産銀が出席しないまま議決された。
<今春の韓国GM危機>
今春の韓国GM経営危機、GMは、韓国政府の支援がなければ韓国から韓国GMを撤退させると脅し、韓国政府は今年5月、経済低迷・雇用難の下、4000億ウォン(約400億円)の新たな融資を行うとともに、韓国政府側もGMが撤退できないようにするため、産銀が拒否権を持てるよう「株主総会の特別決議事項は普通株85%以上の賛成で可能」とした「韓国GMの経営正常化のための基本協約書」を締結していた。
そうしたことから政府・産銀は安心しきっていたものと見られる。
(韓国政府がGMに支援融資した400億円は、郡山工場閉鎖に伴う退職者の退職金額相当でもあった)
韓国GMは、法人新設の理由を「韓国GMのグローバル競争力を強化するため」と説明している。
<GM韓国政府の合意>
5月合意、上記85%条項の合意のほか、KDB産業銀行とGMは、韓国GMに対する従来の3兆ウォン(約3,000億円)規模の貸出金を株式化(DES/債務が減る一方、自己資本を高める効果)し、さらに産銀は1,191万株を引き受け4,000億ウォン(約400億円)ほどを支援、産銀はこれを含めて年内に8,000億ウォン(約800億円)を支援する。
GMは、韓国GMの株2450万株を引き受け、8630億ウォンを支援する内容で合意している。
韓国GMの2017年末の負債額は7兆5441億ウォン、産銀のDESにより約半分の4兆3363億ウォンに減る。
韓国GMは、アジア金融危機で破綻した大宇財閥傘下の大宇自動車、2000年に大宇自動車も経営破たんし、GMが2002年に買収した会社。
<労組の反発=スト>
今回の韓国GMの一方的な会社分割決定に労組は、ストを予告して激しく反発している。
イム・ハンテク金属労組韓国GM支部長は、「現在の単一法人を生産工場と研究開発機能の2つの法人に分けることは、新たな構造調整を通じて分割売却するか、工場を閉鎖しようという意図が隠れている」と主張している。
一方、韓国GMは、「法人新設が撤退のための布石ではない」と述べている。しかし、なぜこの時期に単一法人を二つに分割するのか、生産機能と研究開発機能を分離する理由について、納得できる説明をしていないという。
韓国GMが議決どおり分割した場合、労使の正面衝突という事態に陥り、GMに韓国GM撤退の口実を与える可能性もある。
<自動車関連企業の多さ>
米国の自動車産業は国内1200万台規模の生産に部品メーカーは5,600社ほど、一方、韓国は国内400万台規模の生産に約4,600社の部品メーカーがあるという。
韓国の自動車産業は、一時的な落ち込みがあっても、これまで伸び続けてきたことから、構造調整が行われず、サプライチェーンの企業数の多さがここに来て大きな問題となっている。
韓国メーカーは部品価格競争を行わせることで、コストパフォーマンスを実現しているともいえるが、韓国車の国内生産が減少し続ければ、部品メーカーの薄利多売企業は財務的に脆弱であり、持ちこたえられない。すでにそうした経営破綻企業も目立ち始めている。
(一次・二次下請会社への納入業者が多いほど自動車=製品の品質にもバラつきが出る)
韓国の5大メーカーの韓国内での合計販売台数は155万台(2017年)、約250万台が輸出されていることになる。
韓国自動車メーカーは、各国の進出企業に対する優遇税制や労働コストが安価なこと、現地一帯の市場攻略にも必要なことから、海外へ積極的に工場進出させてきた。
韓国の2017年の5大メーカーの世界販売台数は819万台、うち88%が現代と起亜グループだった。現代と起亜グループの世界販売台数が落ちる中、追随して海外へ展開している部品メーカーも苦戦、さらに国内だけの部品メーカーは輸出不振も重なり、さらに苦戦を強いられている。
韓国経済の低迷、雇用不安下、こうした韓国内の自動車生産業界の実状から、3000億円のDESや400億円の融資をしたばかりの産銀が、GMに対してヒステリックになるのも仕方あるまい。
<ストばかり打つ韓国の自動車労働組合>
一方で、自動車メーカーの労組は、組織結束が固く、ストを打つことで報酬や条件を上げ続け、今や生産効率も悪く、1台あたりの生産時間はトヨタより長い、しかし、平均賃金はトヨタより2割ほど高水準にあり貴族労組とも呼ばれ、国民からも嫌われる存在でもある。
しかし、労組が支援する左派政権が適時に誕生して力を得ることから、スト体質を改善させることができない状態が続いている。激しい多血民族の性格・性質にも関係しているようだ・・・。
<韓国GMの動向>下記表参照のこと
こうした環境下、GMは、肝心の韓国GMの販売台数が、9月までは前年比▲15%減と大きく落ち込んでいる。
米国や中国の自動車販売市場が減少に転ずるなど世界経済も怪しくなっており、韓国GMが赤字を出し続ければ、GMの危機に拍車をかけるものとなり(昨年405万台を販売して中国では、すでに貿易戦争の煽りもあり販売不振に陥っている)、撤退の可能性も高くなる。
GMは、万が一の時、技術流出を防ぐため、開発技術部門を先に分離し、生産工場だけを中国なり、インドなりの企業に売却する可能性がある。
今回の会社分割は、赤字が今後とも続けば、その布石になるものと見られる。
<韓国で見放された韓国GM車>
2010年には約100万台あった韓国GM車の世界販売台数は、2017年には52万4千台まで減り続け、郡山工場の閉鎖を決定した。しかし、2018年の販売台数は1~9月の累計値で前年比▲15%減と年間50万台も大きく割り込む展開となっている。
その主たる要因の一つは韓国内での販売台数が▲35%も落ち込んでいる点が上げられよう。
さらに、今後危惧されるのは、昨年、GMが傘下だった独オペルをPSA・プジョーシトロエン・グループに売却しており、オペルの欧州販売網で販売していた韓国GM車の販売が、今年も継続して販売されているのかという点だろう。
GM本体が欧州から撤退しており、オペル販売網が利用できなくなれば、韓国GMにとって影響は大きい。当然、PSAもオペルの販売網で、オペル車と競合しない車両を販売させるものと見られる(今春までは韓国GM車がオペル販売網で販売されていたと見られるが・・・)。
GM本体も、リーマンショックの影響から2009年経営破たんし、国有化され、2013年12月に再建され米政府は株を売却した。2015年にはスイッチリコール隠しが摘発され、和解金と罰金で計14億75百万ドルを支払っている。
ということで、GM本体もけっして磐石な会社ではない。
撤退しなかった韓国GMの販売台数推移
|
||||
|
うち韓国
|
世界販売
|
||
|
台数
|
前年比
|
台数
|
前年比
|
2012年
|
145,702
|
|
800,639
|
|
2013年
|
151,040
|
10.4%
|
780,518
|
-2.5%
|
2014年
|
154,381
|
2.2%
|
630,532
|
-19.2%
|
2015年
|
158,404
|
2.6%
|
621,872
|
-1.4%
|
2016年
|
180,275
|
13.8%
|
597,165
|
-4.0%
|
2017年
|
132,377
|
-26.6%
|
524,547
|
-12.2%
|
2018年1~9
|
66,322
|
-35.3%
|
341,349
|
-15.1%
|
2018年の月別
|
||||
18/1月
|
7,844
|
-32.6%
|
42,401
|
-9.5%
|
2月
|
5,804
|
-48.3%
|
36,725
|
-19.0%
|
3月
|
6,272
|
-57.6%
|
41,260
|
-18.9%
|
4月
|
5,378
|
-54.2%
|
38,575
|
-21.5%
|
5月
|
7,670
|
-35.3%
|
40,879
|
-5.1%
|
6月
|
9,529
|
-16.8%
|
46,546
|
6.5%
|
7月
|
9,000
|
-16.7%
|
37,046
|
-10.5%
|
8月
|
7,391
|
-26.1%
|
23,101
|
-44.1%
|
9月
|
7,434
|
-17.3%
|
34,816
|
-13.5%
|
1~9月
|
66,322
|
-35.3%
|
341,349
|
-15.1%
|
中国市場における米国勢の販売台数 GM+フォード
|
||||||
|
2016年
|
2017年
|
2018年
|
|||
/万台
|
台数
|
前年比
|
台数
|
前年比
|
台数
|
前年比
|
1月
|
26.90
|
10.3%
|
26.51
|
-1.4%
|
26.53
|
0.0%
|
2月
|
17.21
|
-1.0%
|
16.95
|
-1.5%
|
16.75
|
-1.1%
|
3月
|
23.96
|
8.4%
|
24.62
|
2.7%
|
22.74
|
-7.6%
|
4月
|
19.72
|
9.0%
|
21.45
|
8.7%
|
22.10
|
3.0%
|
5月
|
20.16
|
9.3%
|
22.15
|
9.8%
|
19.63
|
-11.3%
|
6月
|
21.70
|
1.7%
|
23.50
|
8.2%
|
18.12
|
-22.8%
|
7月
|
21.02
|
43.5%
|
20.25
|
-3.6%
|
16.83
|
-16.8%
|
8月
|
24.01
|
32.5%
|
24.76
|
3.1%
|
19.15
|
-22.6%
|
9月
|
28.33
|
26.5%
|
28.91
|
2.0%
|
22.59
|
-21.8%
|
10月
|
28.51
|
17.9%
|
29.97
|
5.1%
|
|
|
11月
|
31.45
|
15.2%
|
31.74
|
0.9%
|
|
|
12月
|
32.66
|
4.6%
|
33.15
|
1.5%
|
1~9月
|
|
合計
|
296.46
|
14.2%
|
303.95
|
2.5%
|
184.44
|
-10.2%
|
中国計
|
2437.69
|
14.9%
|
2,471.83
|
1.4%
|
1,725.97
|
0.6%
|
・米系車にはGMのほか、フォードも入る。
|
||||||
・GMは2017年中国で405万台販売(輸入車と3社合弁生産車含む)。
|
||||||
・中国計は乗用車の工場出荷ベースの販売台数の総計、GMは商用車もあり
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||||||
・2018年の合計は1~8月までの乗用車の累計値
|
||||||
・中国汽車工業協会版、マークラインズ参照
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アメリカでのGM車販売台数
|
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|
販売台数
|
前年比
|
2012年
|
2,595,717
|
|
2013年
|
2,786,078
|
7.3%
|
2014年
|
2,935,008
|
5.3%
|
2015年
|
3,082,366
|
5.0%
|
2016年
|
3,042,421
|
-1.3%
|
2017年
|
2,999,605
|
-1.4%
|
18年1~9
|
2,166,938
|
-1.2%
|
現代+起亜グループの世界販売台数推移
|
||
|
販売台数
|
前年比
|
2012年
|
7,122,681
|
|
2013年
|
7,548,477
|
6.0%
|
2014年
|
8,005,220
|
6.0%
|
2015年
|
8,015,745
|
0.1%
|
2016年
|
7,795,425
|
-2.8%
|
2017年
|
7,251,013
|
-7.0%
|
2018年上半期
|
3,615,624
|
4.1%
|